第13話 見えざる獲物

ダン、ダン、ダン、ダン、ダン。

五匹の群れで襲ってきた魔物に、弾丸を叩き込んで始末した。

弾倉は中の刻印をした物を使っている。


戦闘は、トリガーを五回引く時間で済んだのは良いが……。

「これは、さすがに食う気には成れんな。食えなくは無いだろうが」

ワシの目の前には、ワシよりも大きな蜘蛛の死体が五つ。


「已むを得ん。魔力結晶だけでも回収して行くか」


軍刀を抜き放ち、一体一体腹を裂いて、魔力結晶を取り出す。

正直、あまり気持ちのいいモノでは無い。


四体目の蜘蛛の腹に軍刀を突き立てようとしたその時、背後から殺気。

何故か、ワシのヒゲがチリチリする。

嫌な予感に咄嗟に、左に飛んで地に伏せる。


バチッ!と言う音と閃光。


そっと頭を上げると、ワシが腹を裂こうとしていた蜘蛛が黒焦げに成っている。

「一体、何が有った?」


首筋に嫌な汗が浮かぶ。

強い殺気も消えん。

何者かが、依然ワシを狙っておる。


再び、ヒゲがチリチリと成る。

不味い、さっきと同じだ。

何か仕掛けてくる!


本物の猫の様に四本の足で繁みの中へ飛び込む。


再びバチッ!と言う音と閃光。


今度は何が起きたのか確認ができた。

稲妻だ。

バアルの槍ほどの威力は無いが、何者かが稲妻を放って来おった。


恐らく向こうの茂みの中。

正確な位置は分からん。


一旦、軍刀を鞘に納め、再び銃を抜く。

「しかし、場所が分からんではなぁ……。炙り出してみるか」


茂みから姿を現し、何モノかの潜む茂みの辺りを睨みつけ挑発する。

ヒゲがチリチリしだす。

フッ、便利なヒゲだ……来る!


咄嗟に茂みに飛び込む。

それと、ほぼ同時にバチッと閃光。


「あそこだ!」

ダン、ダン、ダン。

気配の有った茂みに三発撃ち込む。


が、手応えは無い。


木の陰に隠れ、十四年式の空に成った弾倉を抜き、小の刻印の弾倉を差し込む。

狩に持ってきた弾倉は、大中小それぞれ一つづつ。

茂みにひそめる程のサイズの敵に、大の弾倉は必要あるまい。


しかし、なかなかの強敵だな。

「さて、どうするか……」


左手に刀印を結び、悪魔ザミエルの魔法陣をえがき、その権能を十四年式に付与する。

「ザミエルの魔弾!」


これは確率を操る権能。

銃に付与すれば、七発中六発命中させることが出来る。


色々と役に立つ権能だが、必ず七発中一発は外すと言うのが欠点でな。

ワシは射撃には少々自身が有る。

だから普段は、銃などに付与することは無いが、今対峙している敵には有効だろう。


だがそれも、結局のところ、標的の居場所が分からんでは心もとない。

「もう一つ工夫が必要だな」


更に魔法陣をえがく。

ウァサゴの魔法陣だ。

使うは、隠されたモノを探し出す探索の権能。


えがいた魔法陣から、無数の蛍が召喚され、辺り一面を幻想的に飛び回る。

「蛍どもよ、我が敵を探し出せ」


蛍たちが森の中を広がる様に拡散し、そして、ほど無く一か所に寄り集まっていく。

「暗い森の中、蛍が良く見える」

あの下だ。


木の陰から銃で狙い、そして……。

パン、パン。


キュッ!

と、小さな鳴き声。


手応えは有った。

蛍たちも変化なく留まっている。

あそこに倒れているのだろう。


念の為、銃を構えながら近付くが、ヒゲがチリチリする感覚が無い。

殺ったか。


ん?

こやつが稲妻を放っておったのか……。

ネズミではないか。


ニ十センチに満たないネズミの腹部に銃創が一つ。

もう一発は外したらしい。

まあ、仕方なかろう、そう言う権能だからな。


ネズミの額には、その小さな体に見合わない程の大きさの、青い魔力結晶が張り付いておる。

やはり、色付きの魔力結晶は、こやつの放った稲妻の魔法と関係が有るのだろう。


「まあ、何はともあれ倒したのは良いが、しかし……小さすぎる。これだけでは、腹の足しには成らんな……」

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