第144話 【ホバート、戦慄】 恐怖

まったく、あのチビ偉そうに、値切ってくれましたよ!

私は、アイツ等の一味って分けじゃ無い。

金で雇われた、用心棒ですよ。

それなのに、町に潜入させられたり、ガキを誘拐させられたり……。


しかも、町のボンクラ共はともかく、あの猫と炎龍の二人を相手に出し抜いて誘拐した手当てが、たった二百ドル!

当初は千ドルって話が、一人足りないからとかなんとか……それで、二百ドルだと!


まあ良い、この仕事が終われば、アイツ等とは縁切りですよ。

二度と、あのチビの仕事は受ける気は有りませんよ。


まあ、それはともかく。

人質を盾に誘き出されたとは言え、あのゲティスバーグの炎龍、ジム・カラバを仕留めたと成れば、この世界で私の名が知れ渡る。

他の奴等に譲る積りは無い、必ずこの私が……ヒヒッ♪


ガッシャーンッ!


ん!

「何ですか、今の音は……?」


コンコン!

私に与えられた、窓も無い小さな個室の扉を誰かがノックする。

「ホ、ホバートさん、居間に来てください。き、奇妙な死体が投げ込まれました!」

奇妙な死体だと?


まさか町の奴等が、もうこのアジトに?

あの時置いて逃げたあの男は殺されずに捕まって喋った……いや、それは考え難い。

あの男はアジトの場所は知っていても、このアジトとは教えていない。

町の奴等が攻めて来るには、早すぎる……。


部屋を出て、居間に向かう。

「なっ、何なんですかこれは!?」

頭が文字通り吹き飛ばされた死体が転がっている。


単なる銃で撃たれても、こうは成ら無い。

とすると……魔銃か?

だが、しかし、どんな魔銃を使えばこんなに成るんだ?


「それで、コイツは誰なんだ?」

そもそも、ここの奴等に親しい者なんて居無い。

顔の知らない奴らも少なくは無い……が、こう吹き飛ばされては、そんな事は関係無い。


「た、多分ですが、見張りに立たせてたサンタナじゃ無ぇかと……」


ガッシャーンッ!


咄嗟に右手を向く。

飛んでくるガラス片を、左腕で防ぎながら右手で銃を抜く。


また、同じ様な死体が、窓を突き破って投げ込まれた……それも、私が居る目の前で!


ヘルマスの手下達は、だらしなく震えあがっている。

コイツ等は当てに成りそうに無い。


壁際に隠れ、突き破られた窓の外を見る。

気配が、まるで無いだと……そんな馬鹿な事が有るか!

投げ込まれたのは今さっきのことだ。

投げ込んだヤツに隠れる時間なんて無い筈。


「ん……な、なんですかアレは……!?」

目の前の枯れた木の枝に、首を吊った男が……ば、馬鹿な……さっき迄、そんなモノは無かった筈ですよ。

「私が気付かなかった?」

有り得ない……窓の外に吊られた死体に気付かないなんて、そんな間抜けな事は有りませんよ。

なら、ほんの少し、目を逸らせた隙に?

それこそ有り得ない……。


「一体、何が……」


敵を見た分けじゃ無い。

でも、自然現象なわけが無い。

得体の知れ無い、何者かが仕掛けて来ているのは確かだ。


怖気おぞけが走る。

目にしても居ない存在に、私は恐怖している……。

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