第145話 【ホバート、戦慄】二千ドル戴きましょうか

バン、バン、バン!

破られた窓越しに、ヘルマスの手下の一人が無意味に銃を乱射している。

しかし、何ともだらしない、怯えた目だ。


「オイ、止せ無駄だ」

その男を止める。


ともかく、このままじゃマズイ。

敵の得体も知れない、ヘルマスの手下共も浮足立ってる。

下手をすると、命取りに成るかも知れ無い。

炎龍を仕留めて名を上げるどころか、コイツ等と心中なんて事に成ったら目も当てられませんよ。

まったく……!


ドンッ!

とドアが開き、鬱陶うっとうしい男が部屋に入って来る。


「一体何だ!何が有ったってんだ!」

ヘルマスの阿保の息子の方だ。

ラルフ・ヘルマス、図体ずうたいがデカいだけで、腕も大したことの無い無能な男だ。

そして、その背後からチビの父親の方も入って来た。


手下の一人が、ヘルマスに状況を説明する。

「襲撃ですと……まったく、こんな大事な時に、一体どこの阿呆ですか!?ヌアザの奴等って事は無いでしょうね……まさかとは思いますが、炎龍が攻めて来たなんて事は……」


「そんな事は断じて有りませんよ。置いて来た男には此処ここのアジトに行くとは、教えて居ませんでしたからね」

「ですが、アイツはこの辺りのアジトの場所は知っている。まったく、ホバートさんアナタがアイツを置いて逃げて来るから、こんな事を心配しなきゃいけないんですよ。置いてくるぐらいなら、何で撃ち殺しておかなかったんですか!」


出来るか、そんな事!

あの男を射程に収めるって事は、あの時傍に居た炎龍の射程に収まるって事だ。


「まあ良いでしょう。確かに、町の奴等が攻めて来るには早すぎる。だが、どちらにしろ、こんなふざけた事されて、黙ってたんじゃヘルマスの名に傷が付く。ホバートさん、アナタが責任を持ってその阿呆を始末して来て下さい」


チッ、何で私が!

「だったら、二千ドル戴きましょうか。それと、手下も三十人ほど貸して貰いますよ」

当然だ、さっきは炎龍の甥っ子を五分の一に値切られたんですからね。


ヘルマスが、怒りの籠った目で睨み、何かを言いかける。

が、それを、あの男が口を挟んで止める。

「金の話は俺の預かり知らねえ事だが、手下共の件は心配要ら無えですぜ、ルパートの旦那。仮に炎龍が仕掛けてきたとしても、俺一人で十分ですぜ」


ケッ!

ジャコビー・ゴダード、その筋じゃぁ名の知られた殺し屋だ。

確かに腕の立つ男だろうが、だからと言って、やり合って負ける気はしませんよ。

ヤツが、ああ言うのは、何も私の肩を持ってる分けじゃ無い。

もし、万が一の場合は私を出し抜いて、自分が炎龍をと考えての事でしょうよ。

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