第181話 まあ、お察しの通りさ

近づいて来るその人影は、見知った顔だ。

「ドウマさん。こんな夜中に何方どちらに……?」

そう尋ねるケニーの顔を見るに、どうやらワシの旅支度に気が付いたらしい。


「うむ、チト野暮用でな」

と、軽くはぐらかして見る。


「ハァ~……オーウェンの旦那が、ドウマさんはひと所に留まる方じゃ無いと、言っていましたよ……。でも、その内また戻って来られるんでしょ?」

「フッ、無論だ。この地にはワシの油田が有るからな」


「そうですか……」

そうケニーが感慨深気に溜息を一つ。

「では、ドウマさん、必ず戻ってきて下さいね。それまで、どうかお気を付けて」

そう言い、ケニーはゲートの門を開ける。


「うむ、世話に成った」

そう、ひとこと言葉を残して、ゲートをくぐる。




そして、暫く夜も明けぬ闇世の中を馬を進めると、その暗闇の中、馬に跨り誰かを待つ様にたたずむ影が一つ。

その影は、ワシに気付いたのか、歩み寄って来る。


「旦那、こんな夜中にお出掛けかい?」

「フッ、ジム、お前さんこそ、その格好はどうした?」

馬に跨りたたずむジムもまた、見るからに旅支度をしておる。

「なに、野暮用ってヤツさ♪」


ジムが旅支度をしておる訳は、何と無く察しは付く。

何も、ワシを慕って待ち構えていた、と言うわけでは無い。


「やはり、あの家で暮らすのは気が引けるか?」

ジェシーや子供達の暮らすあの牧場は元々ジムと、あの母子ははこの良き夫であり父であったエドの、その両親が護ってきた物だ。

だが、そのエドはもうこの世には居無い。


子供達はともかく、ジェシーに取っては元来、自身の物で無い遺産を受け継いだと言う、後ろめたさの様なモノを感じておるに違い無い。


もし、このままジムが牧場に留まれば、ジムに牧場を譲って自分たち母子ははこはこの地を離れると言いかねん。


故に、ジムのこの旅支度は、それを察しての事だ。


「まあ、お察しの通りさ。ジェシーに無用な気を使わせたく無い。それに、この町でのオレの役目も終えたからな」

ジムが軍を辞め、この町に戻って来たのは、ゴブリンから町を守る為。

そのゴブリン供を蹴散らし、その元凶たるヘルマス供も始末した。

役目は終えたとも言える。


だが……。

「一つ良い手があるぞ」

「ん、旦那……その良い手ってのは?」

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