第149話 【ドウマ、陽動】 誘い出す

音を立てず、地を蹴って背後の枯れ木の元に飛びずさる。


ホバートは壁越しに身を隠し、外の様子を伺って居る。

どうやら、今のところワシの隠身かくりみは健在の様だ。


さすがにヤツとて、隠身かくりみを見破る事は出来んらしい。

ジムと違ってな。

まあ、ホバートとて、あ奴と比べられるなぞ、不本意だろうがな。


さて、そろそろ頃合いか。

手を伸ばし、枯れ木の枝に吊るした死体の、ぶら下がった足に触れ隠身かくりみを解き、その場を離れる。


フッ、ホバートが木に吊るした死体に気付いた様だ。

目を見開き青い顔をしてる。

さすがに、いつもの歪んだ笑顔も無い。


ヤツは、この不可思議な状況に気付いたのだ。

只の雑兵なら、自分の知らぬ内に男が吊るされていたとは驚くだろうが、損傷の激しい放り込んだ死体の方が気にかかる筈。

だが、ヤツの視線は突然現れた、吊るされた死体の方に釘付けに成って居る。

それは、死体が突然現れた事に気付いておるからだ。


バン、バン、バン!


中の男の一人が、闇雲に発砲する。

威嚇の積りか、単に錯乱しておるのかは知らんがな。

その男を、ホバートが止め、窓際から離れ奥に消える。


さて、上手く誘いに乗ってくれよ。


暫し待って動向を見ていると、人の気配が増し、屋敷の東側の扉が開いて、武装した男達が用心深く出て来る。

それも、ゾロゾロと。


フッ、どうやらワシの誘いに乗ってくれたらしい。


東側の庭先に出て来たのは、ざっと三十数人と言ったところか。

この屋敷はさほど大きくは無い。

とすると……。


神経を研ぎ澄ませて、屋敷の中の気配を探る。

うむ、正確には分からんが、屋敷の中には十人ほどしか残って居らん様だ。


持てる最大戦力をもって、外の異変を排除すると判断したか。

ワシの思惑通りでは有るが、なかなかどうして、その判断は間違いじゃ無い。


だが、あの小男が良くそう判断したものだな。

自身を護る壁と成る手下を一時手放すのだからな。

ホバートが上手く説得したか、それとも、もう一人の用心棒が相当な手練れと信用しておるのか、そもそも、あの小男は此処ここにはおらんか……。

まあ、ともかく、これでジムも潜入しやすくなるだろう。


む、最後にホバートも出てきおった。

さすがに用心深く、手下共の中心に立って居る。

どうやら、ヤツにとって周りの手下共は、差し詰め肉の壁と言ったところか。


相変わらずの歪んだ笑みの奥で、鋭く眼光を光らせておる。

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