第148話 【ドウマ、陽動】 恐怖を煽る

さて、恐怖を煽るにしても、今は早朝だ。

こう明るいと、あまり凝った事は出来んし、時間も無い。

成らば、多少派手にやった方が効果的か。


先ずは、殺めた六人の死体に隠身かくりみを施す。

さすがに、ワシも死体に隠身かくりみを施すなどした記憶は無い……単に前世の記憶から抜け落ちてるだけかも知れんが……ともかく、ニーリーを抜ける時に馬車には付与出来た、死体も問題なかろう。


そして、朽ちた小屋や厩舎の中から、使えそうな荒縄を探し出し、枯れた庭木に一体吊るす。

当然、隠身かくりみを掛けておるからヤツ等には見えん、今はな。


コイツを使ってヤツ等を誘い出し、出来るだけ屋敷から遠ざけたい。

そうすれば、幾分かジムも潜入しやすかろう。


誘い出す場所は、そうだな、厩舎の有る辺りにするか。

身を潜める所もある。

ヤツ等を血祭りに上げるには丁度良い。


厩舎の方へ誘い込む様に、六つの死体を点々と、庭木の枝や朽ちた小屋の梁に吊るしていく。


そして次に、門の外で始末した二人の見張りの死体だ。

はからずも、派手に頭を吹き飛ばしてしまったが、だがまあ、これはこれで、恐怖心を煽れそうだな。


一旦、門扉の外まで戻り、この死体にも隠身かくりみを施して、屋敷の北東に位置する角部屋、最も人の気配の多いその部屋の、北側と東側の窓の真下にそれぞれ横たえる。


さて、準備は整った、始めるとするか。


北側に配置した死体に触れ、隠身かくりみを解く。

そして抱え上げ、北側の窓を突き破る様に部屋の中に放り込む。


ガッシャーンッ!

突き破られた、窓ガラスが派手な音を立てて砕け散る。


中で、馬鹿話で談笑して居った男達が、なんともみっともない悲鳴を上げ慌てふためいておる。

うむ、これなら、このまま中に飛び込んで、全員切り伏せた方が早い気もしなくも無いが……捕らわれたバーニーの居場所が分らんではな。

今は未だ、自重して手筈通り事を進めるとしよう。

今度は東側の窓の下に身を伏せる。


ん?

慌てた様子で、誰ぞこの部屋に入って来おった。


「なっ、何なんですかこれは!?」

ん、この声、ホバートか……うむ、ジムには悪いが、どうやらヤツを引き当てたのはワシの方で有ったか。


今度は、東側に配置した死体の隠身かくりみを解き、東側の窓に投げ込む。


ガッシャーンッ!


ほう、なかなかどうして、大したものだ。

ホバートは、咄嗟に銃を抜きおった。

別に慌てたふうでは無い。

アレは体に染み付いた身のこなし。

修羅場をくぐっておる証だ。

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