第73話 商談を掻っ攫う 前編

「確か、お前さん、町が借りた金を返すには、町を売るか黒の森でリンドヴルムでも討伐して、その魔力結晶を売るしか無いと、以前町長に言ったらしいが……」


「うーむ……確かに以前、雑談交じりにその様な話をしてかも知れんが、それが何か?」

「成らば、お前さん。それ程の物を処分して金に変えるすべを持っておると思って良いか?」


「そうですな、私も銀行家の端くれ、可能か不可能かと問われれば、可能でしょうな。ではそのお持ちに成っている袋の中に、それに匹敵する程の物が?」


「ハッハッハッ!これは愉快!ドウマさんと仰ったか。まさか本当にリンドヴルムをたおしたなんて冗談は止して下さいよ。まあ、その袋を見る限り、多分結構大きな魔力結晶をお持ちに成ったと、言ったところでしょう。そうですな……差し詰め黒の森の外で野垂れ死んでるトロール・ベアか何かの魔力結晶でも運よく手に入れたってとこでしょう。ハハハ、違いますかな?ですがね、幾ら大きい魔力結晶でも無色の物では、到底お話しに成りませんでしょうな。まあ、それでも、その大きさなら二千……いや、千五百ドル程度の価値には成りますかな。ハッハッハ、三百万ドルと迄は行かんが、それなりの大金だ。どうです、何だったら私が買って差し上げましょうか?」


フッ、確かこれより二回りほど小振りなトロール・ベアとやらの魔力結晶が、二千ドルは下らんとトマスが言っておったがな。


「ワシが、お前さんに売りつけたい物はコイツだ」

布袋の底を掴み、その中身を円卓の上にゴロリと取り出す。


「おお!!」

「こ、これは!!」

「バ、バ、バカな!!」

漆黒に輝くソレを見て、円卓を囲む男達が凍り付く。


「おいおい……旦那……コイツはいったい…………ハッ!まさか旦那!!」

ジムが何かに気付いたのか、ワシの耳元で声を押し殺して問い掛ける。


「まさか……旦那……こいつは……リンドヴルムの……。だけど昨日、歯が立たなかったって……」

「フッ、ワシは銃も刀も全く歯が立たなんだと言ったのだ、逃げたとも負けたとも言ってはおらん」

「で、でも、どうやって……そんなバケモンを……?」

「なに、お前さんに未だ見せてない切り札ぐらい、幾つもあるさ。まあ、詳細は語れんがな」


ジムは信用のおける男だが、ワシの魔法に付いては、未だ隠して置くとしよう。

どこでどう話が広まるか分からん。

今は、未だ誰にも知られたくは無い。

ワシ自身、この世界の魔法に付いては良く判って居らんからな、この世界の常識である魔法と、ワシの魔法、その乖離するところが人々に知れ渡った場合の影響が、推測も出来ん今はな。

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