第20話 駅馬車強盗

森の出口から少し離れた木の裏に身を潜め、様子を伺う。

人だ。

この世に生まれ落ちて、始めて見る人間。

堀の深い顔立ちをしている。

どう見ても、日本人では無いな。


見た所、二つのグループが対峙しているようだ。

一方は馬車、御者台に男が一人……いや、もう一人居った様だが、馬車の下に銃を持った男が倒れている。

さっきの銃声の犠牲者なのだろう。

馬車は四頭立て、車体は結構大きめだな。

恐らく、駅馬車か。

中にも人の気配がある。


もう一方は馬に乗り、銃を構えた男たち。

ひい、ふう、みい……丁度十人。

奴らが構えている銃は、結構古めかしい……恐らく、スペンサー銃。


どうやら、駅馬車が強盗に襲われている場面に出くわしたらしい。

さて、どうするか、と考えて居る暇も無さそうだ。

今にも、御者が見せしめに殺されそうな雰囲気だ。


出来れば、ファーストコンタクトは慎重に行きたかったのだがな。

「フッフッフ♪已むを得まい。悪は刈り取るに限る」


御者の頭部に銃口を向けている男のこめかみに、十四年式拳銃の照星しょうせい照門しょうもんを合わせ、引き金を引く。

パン!

十四年式の乾いた銃声と同時に、その男は落馬する。

先ずは、一人。


馬はいななき、予想だにしなかった奇襲に慌てふためいておる。

続けて、後方でふんぞり返っていた男に狙いを合わせる。

恐らく、こやつが指揮を執っているのだろう。

頭はさっさと叩くに限る。

パン!

二人目。


ようやっと、森の中から狙撃されておることに気付いたか、此方に撃ち返して来おる。

フッ、てんで的外れだがな。

闇雲に撃って当たるモノか。

パン、パン!

続けざま、三人目と四人目の眉間を射抜く。


キュン!

ワシの頬のすぐ横を銃弾が掠める。

「ほぅー、一人腕の立つのが居るではないか」

止まっていては的になる。

草むらを走りながら、その男に狙いを付ける。

キュン、キュン!

当たりはしないが、銃弾が掠める。

「腕は悪くない、が相手が悪かったな」

パン!

五人目。

残り半数。


残りの盗賊が馬車の方に移動し始めた。

馬車を盾にするか、人質に取る腹か。

マズイな。


パン、パン!

馬車の後ろに回り込もうとした二人をたおしたところで、残りの三人が御者を御者台から引きずり降ろし、銃を突きつける。

「これが見えるか!銃を捨てて出て来い!さもないと、コイツの頭が吹っ飛ぶぜ!ヘッヘッヘ」


ん?

英語……とすると、ここは英国かその植民地……いや訛りがある、アメリカか……止そう、詮索は後回しだ。

それにしても人質とは……さて、厄介な事だな。

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