第22話 ファニングショット

「どうも勘違いしておる様だが、貴様らの仲間七人をったのはワシだ」


「ん!?この声……コイツ、ガキじゃねえ!な、何者だ貴様!そのツラ見せやがれ!」

「ああ、良いだろう」

左手で、軍帽を脱ぎ捨てる。


「に、人間じゃねえ……ネコだと!?」

「どうした?ネコを見るのは初めてか?」


「ふ、ふざけんな!貴様、何者だ!」

「うむ、難しい質問だな。ワシも良く判らんでな。まあ、哲学的におのが存在に付いて語る事は出来るが……小一時間程掛かる、構わんか?」


「て、てめぇ馬鹿にしやがって!貴様が何者だろうが関係ねぇ!ここで死ね!」

馬鹿なヤツだ。

左右に控える仲間に任せれば良い物を、ワシの下らん挑発に乗って、人質の御者に向けていた銃口をワシに向ける。


今だ!

右手の刀印の指先に浮かぶハルファスの魔法陣を起動し、瞬時に投げナイフを形成して、目の前の大男が引き金を引くより早く、右手を振り下ろす。

刹那、ズドドン!と銃声が鳴り響く。

ヤツらのでは無い。


大男は、引き金を引くまでも無く、眉間にナイフが突き刺さり力無く倒れる。

そして、それとほぼ同時に、左右の男たちも崩れる様に地に伏す。


一瞬で錬成出来たのは、ここの所、錬成を繰り返していた訓練の賜物だ。

出来は悪いが、使い捨てと割り切れば、見ての通り十分だ。


ふと、銃声が轟いた方に目をやる。

赤毛で長身の男が、落とした自身のテンガロンハットを拾い上げ、銃を腰のホルスターに納めながら此方に歩み寄ってくる。

履いているジーンズと首に巻いた赤いバンダナ以外、テンガロンハットとベスト、それに足首まで届くダスターコートは黒で統一しておる。

見た処、結構若いな。


ヤツの放った銃声は一つに聞こえた。

だが、倒れたのは二人。

ファニングショットか。


シングルアクションの銃を、利き手で引き金を引いたまま抜き、もう片方の手で撃鉄を素早く叩く。

その動作自体は難しく無い。

だが、命中させると成ると別の話だ。

しかも、馬車の裏から横っ飛びに飛び出しざま二発、人質を挟む様に片膝立ちしている標的の頭を打ち抜くなど、到底出来るものでは無い。


赤毛の男は、ワシの投げ捨てた軍帽と十四年式を拾い上げ、珍しそうに眺めながらワシの元へ。

「へ~、これが旦那の銃かい?珍しい形してるな……何発も連射していた様だったが、シリンダーが無い……弾は何処に……いや、撃鉄も……どうなってんだ、これ?」


ん?

妙だな、この男自動拳銃を見たことが無いのか?

確かに、十四年式拳銃は独特な形状をして居るが、こやつ程の腕前の者ならソレと判ると思うのだが……。

「そいつは、自動拳銃だ。見た事無いのか?」

「ああ、無い」


「貸してみろ」

十四年式を受け取り、空の弾倉を捨て、新しい小の刻印の弾倉に差し替え実演。

「この後ろのコッキングノブを一度引っ張って、弾倉の弾を一発薬室に送る。そして、あとは……」

パン、パン、パン。


「見ての通り、引き金を引くだけで弾が出る」

「スゲ~な。グリップの中に弾が入るのか……しかも差し込むだけ。撃鉄もイチイチ起こす必要も無いのか……。この弾倉ってのに何発弾が入るんだ?」

「八発だ、撃ってみるか?」

「え!いいのか?」

十四年式を渡し、小石を五つ拾い上げ、順番に放り投げる。

パン、パン、パン、パン、パン。

当然の様にヤツが全て打ち抜く。


「見事なものだ」

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