第32話 次はワシの番と云う分けか

「頼んだだと……まさか!」


前方の巨大な影がムクリと動き出す。

どうやら、ヤツは死んではおらん様だ。

頭の三分の一を吹き飛ばされ、それでも尚……やはりあのクマ、バケモンだな。


グォォーー!


「已むを得んか」

クマを仕留めるのは簡単だが、銃は小の刻印の弾丸以外は見せん方が無難だな。

魔弾だと勘違いされるのも面倒だ。

かといって、派手にバアルの槍を見せるわけにも行かん。

と成ると……。


馬から飛び降り、左手でアモンの、右手で電撃の魔法陣をえがく。


フッ、それにしてもジムの奴、三味線を弾きおったな。

あの魔弾の威力、クマの右目で無く眉間を打ち抜いておれば、恐らく仕留めておれたろう。

だが、わざわざ、手加減を加えおったのだ。

「成るほど、次はワシの番と云う分けか」


えがき上げたアモンの魔法陣を胸に押し当て、身体能力を強化。

そして、軍刀の鯉口を切り、十センチほど抜いた刀身に、右手の刀印の指先に浮かぶ魔法陣を付与する。

要は前回、六本脚のクマを仕留めた時と同じだ。


グォォォーーー!


雄叫びを上げて、ヤツが迫ってくる。

どうやら、石礫いしつぶては飛ばして来んらしい。

脳をやられて、魔法を放てなくなったか、それとも単に頭に血が上ったか。

いずれにしろ、手間が省けて有難い。


既に、ワシの眼前に迫ったクマが立ち上がり、鋭い鍵爪の有る四本の腕を振り上げる。


「旦那!!」

ジムとバリーがワシに叫ぶ。


振り下ろされる四本の腕を掻い潜る様に、足を踏み切り、飛び上がる。

軍刀を一閃!


ドサッと重い音を立てて、ヤツの体が地に崩れる。

そして、時間差を置いて、宙に切り飛ばした首も地に落ち転がる。


「だ、旦那、ご無事ですかい!」

バリーが、巨大なクマの体を避けつつ駆け寄ってくる。


「ああ、心配は要らん。無傷だ」


「ハァ~、驚いたぜまったく……。俺はてっきり、銃でトドメを刺すのだとばかり。まさか、あんな化け物をサーベルの一太刀で切り殺すなんてな……。そんな芸当、この大陸広しと言えど旦那ぐらいなもんだぜ」

フッ、少々苦戦して見せた方が良かったか。


「なに、ジムがヤツの頭を三分の一吹き飛ばしてくれたお陰で、石礫いしつぶてを撃って来んかったからな」

「石礫?」

「なんだ、お前さんは知らんのか。ヤツは石礫いしつぶてを散弾の様に飛ばす魔法を放ってくる」


「いや、そうじゃ無くって……。旦那がさっき一度たおしたって言ったのは、まさかその魔法を?」

「ああ、そうだが」


「はぁ~、旦那、ソイツは色付きって奴だ。腹ん中に色の付いた魔力結晶が有ったろう。魔物も人と同じで色付きの魔力結晶を持つモノと、そうで無いモノが居る。前者は特別な個体で、早々お目に掛かれない存在、且つ恐ろしく危険な存在さ」

「では、コイツは色付きの魔力結晶を持っておらんと?」

「まあ、腹を裂いてみないと確証はないが、十中八九はな。それにしても、まさか色付きのトロール・ベアを狩っていたとは……旦那は敵に回さない事にするよ」


「お前さんでも狩れたさ。大した相手じゃ無い」

「フッ、まあ、俺のコルトに魔弾が六発入っていれば、或いはって処だろうが、出来ればそんなのとやり合いたくは無いね」

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