第33話 不穏な街

街道の真ん中に横たわるクマの腹を裂き、魔力結晶を取り出してみると、ジムの言う通り、無色の物が一つ。

それも、以前に狩ったクマの物より一回り小さめだ。


それでも、ワシの頭ほどあるソレを、ジムと分けようと落ちている岩で叩き割ろうとすると、血相を変えたトマスに止められた。

「ま、待った、猫の旦那……ふぅ~、一瞬ヒヤリとしましたよ~」

「どうした、トマス?」


「どうしたも何も、何なさってるんですか!」

「いや、ジムと分け合おうと半分に……マズかったか?」

「旦那、魔力結晶は大きい単結晶ほど価値が有るんです。ですからこれ程の魔力結晶と成ると、二千ドルは下らんでしょうな。ですがもし、半分に割ったりなんかしたら、価値が半分に成ってしまっていたところですよ」


「成るほど。しかし、そうなると、どうやって分けるかだが……トマス、また買ってくれるか?」

「いやいや、さすがに二千ドルなんて大金、持ち合わせが有りませんよ。そうですな、ヌーグの町なら、フロンティアギルドが有りますから、そこで買い取ってくれますよ」

「分った。ジム、それで構わんか?」

「ああ勿論、俺は良いぜ。高く売れるなら、それに越したことは無いさ」


「そう言えば、そのフロンティアギルドとは何だ?昨日から偶に耳にするが」

「ああその事ですか。この大陸に移り住んだ開拓者を支援する民間の組織ですよ。まあ、互助会みたいなものですな。年会費を払えば仕事の斡旋や、道具の調達まで色々面倒を見てくれる組織です。この大陸に育った成人は大抵登録をしていますよ。もし良かったら、猫の旦那も登録しておく事をお勧めしますよ」

「成るほど、参考に成った。ヌーグと言う町に行ったら一度顔を出しておく事にしよう」



その後、夕食用にクマの腕を一本切り取り、馬に引かせてその巨大な骸を街道からどけると、再び馬車を進める。

そして何事もなく日が暮れ、彼らとの二度目の夜を過ごす。


翌日、バリーの言っていた分かれ道を南に向かい、暫く進んで橋を渡ると、遠くに町が見えて来た。

あれがニーリーと言う町だな。


夕刻、町のゲートをくぐり、中へ入る。

さびれた町だ。

夕刻とは言え、未だ日が出ているにもかかわらず、ほとんど人影が見当たらん。

そのくせ、四方から視線を感じる。


バリーの懸念通りかもしれんな。


バリーの話では、彼の知人の宿屋が一軒あるらしい。

今日の処は、そこに一晩宿泊し、明日の早朝出立するとの事だ。


警戒しつつ、その宿屋の横に馬車を止めると、バリーが皆を残して宿屋に入っていく。

そして、暫くも待たない内に渋い顔で戻って来た。


「猫の旦那、ジム、やっぱり様子がおかしい。この宿屋はアーウィンって男がやってんだが、中には知らねえバーテンが一人。ソイツが言うには、アーウィンは出かけてるとかなんとか……。いまいち要領を得ねえ。どうする?」

何やら、きな臭い雰囲気だが、はてさて、どうしたモノか……。

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