第34話 素泊まり5$

「どうするったって、馬車を引く馬がバテちまってるぜ。このまま、町を出るのは無理だな」

本来なら途中の駅で馬を替えて乗り次いでる筈が、駅が以前盗賊に襲われて使えず、此処まで替えずに引っ張らせていたのだからな。

少し休ませてからたないと、次の町まで持たんかもしれん。


「バリー、他の宿屋は?」

「いや、猫の旦那。もう一軒あるには有るんだが……そっちは元々怪しい噂の有る宿でしてね。泊った客が、何度か行き方知れずに成ったって話で……」


「じゃあ、他に選択肢はねえな。まあ、そのアーウィンってのが本当に出かけてるだけで、取り越し苦労ってこともある。ともかく俺と旦那が用心して、他の皆もいつでも出立できるように準備だけして休むってのでどうだい?」

「已むを得まい」

「分ったよ、ジム、猫の旦那」

ま、いざと成れば、派手に権能を振るえば切り抜けられんと言う事も無かろう。


バリーが、他の乗客に一通りの説明と注意をしている。

「……と、言う事なんで、皆用心してください。特にお嬢さん方は、間違っても客取ったりしないで下さいね」

「馬鹿にしないで。私達だって、修羅場は何度も経験してるわ。この町の変な空気ぐらい気付いてるわよ」

「それにこの街、客筋も悪そう」

「そうそう」



ともかく、スイングドアを押して宿屋の中に入る。

まあ、ワシの身長ならくぐった方が早いかもしれんが、何となくワシの矜持きょうじが許さん。


宿屋と言っても、一階はバーに成っていて、テーブルもいくつかある。

床や、壁にはいくつか穴が有り、かなり寂れた雰囲気だな。

見た所、掃除も行き届いておらん様だ。


バーの客は三人、テーブルを囲んでカードゲームにいそしんでいる……風を装っているという感じか。

ちらちらとジムを見ておる。


マーゴ達が居るにもかかわらず、ジムに視線を向けるのは、そういう趣味でも無い限り、腕の方が気に成るのだろう。


バリーが店番をしていると言うバーテンと交渉し、部屋を取る。

宿屋の部屋は二階に六部屋。

今日は他に泊り客は居ないと云う話だ。


ちなみに一階にも二部屋あるが、こちらは、娼婦たちが夜使う部屋らしい。

見た所、そんな女は居ない様だが……。


宿泊料金は一泊素泊まりで、五ドルだそうだ。

「おいおい、こんな宿で素泊まりで五ドルって、あり得んだろ」

「料金に御不満ならお引き取りを」

ジムが値切ろうとしたが、どうやら無駄らしい。


部屋代は、当然自腹に成る。

各人が同室に成る者同士で、割り勘と言う事だ。

部屋割は、ジム、バリー、トマスが同室に、モーリス、ケイティ、コクラン夫妻がそれぞれの家族で一室づつ、そして三人娘で一室。


ワシは一人で部屋を取ることにした。

その方が、何かと動きやすいからな。


各人、貴重品だけを持って二階に上がり、五つの部屋に分かれて行く。

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