第35話 自重の必要は無かろう
部屋に入ると、小なベッドが二つ、それと二人掛けのソファ、ただそれだけの粗末な部屋だ。
夕日も沈みかけ、部屋の中は暗い。
ソファの横にあるサイドテーブルにランプが一つある。
当然、灯油などで灯す物では無い。
燃料は魔力結晶。
バーテンからは、使うならば手持ちの魔力結晶を使う様に言われている。
この世界においては、有り触れた物らしいが、ワシに取って初めて見る魔道具だ。
興味が湧かない訳がない。
一応使い方は、さっきジムに聞いておいた。
小さな米粒大の魔力結晶を、ランプの根元に有る小さな引き出しに入れ、ランプに描かれた魔法陣に一度触れる。
仄かな明かりが灯る。
「思いの外暗いな」
これが、普通なのか、単にこのランプの質が悪いのかわからん……。
バラして原理を調べたい処では有るが、まあ、今日の処は自重しておこう。
取り合えず、窓際のベッドに横に成り、少し仮眠をとる事にする。
もし、何か事が起こるとすれば、夜も更けてからだろうからな。
小一時間程して目を覚ます。
まあ熟睡したわけでは無いが、この世界に生まれて、初めてのベッドだ。
疲れは取れた気がする。
一応、他の乗客には出来るだけ外に出ない様には言って有る。
何しろ乗客は女性が多いからな、何かとトラブルに成らないとは限らん。
だが、一応見回りしておく方が良いだろう。
隣のベッドに放り投げた軍帽を冠り、部屋を出る。
二階は、まあ、静かな物だな。
そして、そのまま階段を降りる。
バーの中は先ほどより、少し客が増えてはいるが、流行っているとは到底言えんな。
うん?
あれは……。
バーの入り口の横にあるテーブルを囲んで、四人の男がカードゲームをしておるようだが、その内の一人、見知った顔がある。
「ジム、何をしておるのだ」
「うん?ああ、旦那か。何って見ての通りポーカーさ。ちょっと様子を見に下に降りたら誘われてね」
成るほど、探りを入れるには、そう言う手も有りだな……うん?
それとも、この男、ただギャンブルしたいだけでは無かろうな……。
「で、戦果は?」
ワシの問いに、ジムはテンガロンハットのつばを人差し指でチョンと下げ、目線を隠す。
成るほど、芳しく無さそうだな。
ん!?
何となく、カードを配っている男に目をやると、ジムには手に持った山札の一番下のカードを配っておる。
中々器用に、気付かれん様にしている様だが、ワシの目は誤魔化せん。
で、ジムが手にしたカードは……てんでバラバラだな。
成るほど、イカサマでジムをハメておると言うことか。
その事にジムは気付いて……ハァ~、おらん様だな。
当然、このゲームもジムの負けで終わる。
「ジム、ワシが代わろう。このままだと、お前さん、身ぐるみを剥がされるぞ」
「はぁ~、確かに……今日はついてねえ」
ジムに代わって席に着く。
イカサマでカモろうとする輩だ、自重の必要は無かろう。
ワシも、イカサマさせて貰う。
テーブルの下でザミエルの魔法陣を描き、結んだ刀印の指先を胸に押し当てる。
さあ、ゲームを始めようか♪
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