第31話 魔弾、二十ドル

「この黒の森で暮らしていたんだろ。狂暴な魔物共が跋扈ばっこし、入った者は生きて出ることの無いと云われるこの黒の森で……」

成るほど、だからワシがこの森から出たのが初めてだと言った時、いぶかしんで居ったのか。


「まあ、生きて出ることが無いってのは大げさだけどね。たまに魔物の魔力結晶を求めて、大人数で狩をする事が有る。だけど、単独で、しかも無傷で、森から何事もなく出て来た者は初めて見たよ。旦那がヤツに向ける目は、強者が弱者に向ける目だ。一点の怯えも無い。旦那はヤツを仕留めた事が有るんだ。そうだろ?」

まったく、鋭い男だ。


「フッ、ああ、一度な」

「じゃあ、旦那に任せるよ♪その方が確実だ」


十ドル金貨を一枚、ジムに投げて渡す。

「ん、コイツは?」

「魔弾とやらの威力を見てみたい。確かデカい熊の頭を吹き飛ばせると聞いたが」


「おいおい、確かにそう言ったが、あれは普通のデカい熊の事さ。あんな化け物の事じゃねえよ」

「どうした、たおせんのか?」


「そりゃまあ、当たり所に寄れば、たおせんことも無いが……コイツはなけなしの一発でね。それに結構値も張るんだ」

もう一枚投げて渡す。


「はぁ~、負けたよ旦那には。だが、れるとは限らんぜ。しくじったら旦那が始末してくれ」

「ああ、分った」


通常、リボルバーを持ち歩く際は、何かの拍子で撃鉄がシリンダー内の弾丸に触れて暴発しない様に、一つ空の薬室を作り、その薬室の穴に撃鉄が収まる様に携帯する。

ジムもまた、普段は最大六発入るコルトのシリンダーに五発のみ装填しているのだろう。

銃をホルスターから抜き、その空の薬室に例の魔弾を装填し、少し馬を前に歩かせると、左手首に銃を持った右腕を乗せる様にして構え、撃鉄をガチャリと引き起こす。


まさかこの男、拳銃で二百メートル先の標的を射抜くつもりか……ハハハ、面白い。


馬を夢中に喰らっていた熊が、此方に気付き威嚇する様に立ち上がる。

ジムがワザと殺気を放って、狙いやすい様に熊を立たせたのだ。


ジムは「ふ~」と短く息を吐き、止める。

ズドン!

正に銃が火を噴く。


通常の45ロングコルトの弾丸を撃っても、ああは火を噴くまい。

ジムは火球を放つと言ったが、さすがに高速で撃ち出されるソレを見る事は出来んかったが……。


放たれた魔弾は、クマの右目に直撃し、そのまま頭部の右側三分の一程を吹き飛ばす。

そして、クマは崩れる様に後方に倒れる。

「見事!」


ジムは手綱を引いて踵を返し、ワシとすれ違いざま、十ドル金貨を一枚投げて寄こし、口元に笑みを浮かべながら言い放つ。

「じゃあ旦那、あとは頼んだぜ♪」

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