第70話 向かい合う三者

町の中心に教会の尖塔が見えてくる。

ジムいわく、この町で一番高い建物だそうだ。


く人々は一様に、同じ方向に向かっている。

教会の横に在る、大きなかまぼこ型の屋根の建物。

人々は、その中へと入っていく。

誰も皆、暗い表情をしているのは、まあ、察するに余りある。

あそこが、その集会所とやらだろう。


ワシとジムも馬を降り、その中へ。


集会所の中には、無数の長椅子が奥を向く様に並んでいる。

既に、結構な数の町民が、その席に付いている。


そして、皆が向く方向、集会所の一番奥に円卓が一つ。

三者が向かい合う様に座っている。


中央に座る男は、細身で白髪の男。

清潔感の有るスーツを身にまとっている。

見るからに、上流階級の人物なのが見て取れる。

粗暴な雰囲気も無く、知的な印象を受ける。

恐らくあの男が、銀行の頭取とやら言う男だろう。

確か、町長はデュモンと呼んでおったか。


左に座るのは、昨日ジェシーとジムを訪ねて来た町長だ。

それと、その後ろに控える様に立っている男も見覚えがある。

オーウェンと言う男だ。

この町の自警団の団長で、有力者だと言う話、彼も代表の一人として話に加わるのだろう。


そして、右に座る男……目立つのは、肩幅がジムの倍はあるだろう巨漢の男だが、この男は単なる添え物だ。

デカいだけで、風格など微塵も無い。

その手前に座る、小柄な男。

ワシより幾分か背が高い程度だろう。

恐らくこの男が、昨日町長が言っていたルパート・ヘルマスと言う男か。

彼の背後には、いかにも柄の悪そうなのが三人ほど控えている。


ん、何者だ、あの右側の隅に腕を組んで壁にもたれ掛かる男は?

年季の入ったテンガロンハットを冠り、目線は隠しておるが、ただ者で無いのは一目瞭然だ。

ただし、その事に気付いておるのは、ワシとジム以外は数人だろう。

右側の隅に陣取っていると云う事は、まず、ヘルマス一家いっかの手の者だろうがな。


暫くして、真ん中に座る男が、ゆっくりと口を開き、話し合いが始まる。

「それで、町長さん。この町にお貸ししている金は現在、約二百万ドルにのぼります。正直な所、既にこの町の返済能力の限界だと私は考えて居ます。そこで、ここにられるヘルマスさんが、この町を譲り受けると言う条件で、その借金を全て肩代わりしてくださるとの話。悪い話では無いと思うのですが、如何いかがですかな?」


「デュモンさん、それは少し、待って貰いたい。まだ、いささか成りとも、町の収支を上げれるかもしれん可能性が出て来たんじゃ」


その町長の言葉に、小柄な男がせせら笑う様に口を開く。

「ハハハ、それはどの様に?ゴブリン共に散々荒らされて、未だ討伐すら出来ていない。こんな状況で町の収支をお上げに成ると」

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