第140話 策と運試し

「まあ、心配することは無い。ワシもお前さんも隠身かくりみの術を掛けて忍び込む。そうそう見つかる事は無い。仮に、始末した見張りの死体が見つかったとして、それはそれで陽動に成る」

「ああ、姿を消すって云う……でも、オレにも掛けられるってのかい?」


「問題無い。ただ、幾つか注意点が有る。女帝エンプレスを始末した時にも言ったが、声や音を聞かれると術は解ける恐れが有る」

「そう言えばあの時、旦那そんな事言ってたな」

「まあ、囁き声程度なら、そうそう解ける事も無いとは思うが、用心はしてくれ。それと、声を出さずとも、相手の近くで真正面に立てばさすがに効果は無い。特にお前さんはワシと違ってデカいからな。で、最後にもう一つ。鏡に映った姿を見られても成らん。まあ、ヤツ等が身だしなみに気を掛けるとも思えんが、屋敷の何処かにあるかも知れん。気を付けてくれ」

「ああ、分ったぜ」


「それで、敷地に入ってからの事だが、二手に分かれよう。ワシは外からヤツ等をあぶり出して陽動する。お前さんはその隙に屋敷に忍び込んで、バーニーを救い出せ」

「ああ、ソイツも承知したぜ」


「でだ……問題が一つある……」

「ん、その問題ってのは?」


「あそこには手練れが二人いる」

「その事か。一人はホバート、そしてもう一人は……集会所に居たあのデカブツって事は無えわな。とすると……後ろに居たテンガロンハットの男か。確か、旦那に睨まれて固まって居たが、確かに、ヤバい感じの男だったぜ」


「うむ、そうだ。ワシがヤツ等を陽動するとして、恐らくその手練れの何方どちらかが出て来るだろう。そして、もう片方はヤツ等にとっての要人の警護に残る筈だ。もしあの小男が居ればヤツを、居なければ、折角誘拐したバーニーを護る為にな」

「成るほど……そう言う事か……で、ホバートの野郎は、旦那とオレどっちが?」


「さあな、さすがにそこ迄はワシも読めんよ。どっちがヤツに引導を渡すかは、その時に成らんと判らん。まあ、ワシとしてはお前さんに譲ってやりたいところだがな」

「どっちと当たるかは運しだいってか……。ハハ、まあ、良いぜ。どっちに当たっても恨みっこ無しって事でな」


うむ……運しだいか……。

「フッ、成らば一つ運試しと行くか?」

右手に刀印を結んで、左手の甲に素早く魔法陣を描く。


「運試しって、旦那?」

ポケットから十ドル金貨を一枚取り出す。

「なに、大した事じゃ無い。コイツを放り投げて、裏表を当てるだけだ。お前さんが勝てばコイツをやろう」

「ハハハ、旦那相手に賭けで勝てる気はし無えが……面白そうだ。で、オレが負けたら?」

「うむ、そうだな、一ドルを貰おう。で、コイツをお前さんが勝つまで繰り返す」

「おいおい、それじゃあ、旦那の一方的な損ってヤツだぜ、オレは良いが本当に構わ無えのかい?」

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