第64話 リントヴルムとは?

「ところでジム、一つ聞きたい事が有る」

「なんだい旦那?」


「先ほど町長が、借金を返済するには町ごと売り払うか、黒の森でリントヴルムでも討伐して、その魔力結晶でも売るしか無いと言っておったが、そのリントヴルムとは何者だ?」

「ああ、リントヴルムの討伐って話かい。まあ、あれはこの辺じゃ不可能な事の例え話さ。人には絶対たおせない不可侵な存在、それがヤツの事さ。リントヴルムだけじゃ無いぜ。黒の森には十王って呼ばれる、十体の強力な魔物が住み着いているんだ。リントヴルムもその十王の一角さ」


「ほう、不可侵な存在とな、それは興味深い」

「ん?おいおい、まさか旦那……変な事を考えてるんじゃ無いだろな。いくら旦那が強いからって、ソイツは無理ってもんだぜ。この間、旦那が切り殺したトロール・ベアなんか足元にも及ばねえバケモンだ。旦那、不自然に思わなかったかい?あの黒の森に人が踏み込ま無え事にさ。正直トロール・ベア程度なら、魔銃を持ったガンスリンガーが数人で掛かれば、旦那やオレで無くても狩ることが出来る。で、あのデカい魔力結晶が手に入るんだ。単にそれだけなら随分割の良い仕事さ。いくら魔弾の値が張ると言ったって、十分お釣りは来る。だが、誰もそれをし無え。それは、その十王があの森に居るからさ。十王の姿を見て生きて帰って来た奴はほとんど居ねえ」


ほとんどと言うからには、生きて帰って来た者もると云う事か?」

「まあ、当然さ。じゃ無きゃ、あの森にそんなバケモンが十体も居るなんて、記録にも残ら無えさ」


「で、どんなヤツらだ?」

「そうだな……巨大な獣だったり、巨大なカメだったり、同じく巨大な鳥だったり、伝説に残っている十王の姿は、まあ色々有るが、どれも曖昧な物さ。何しろ、ほとんどが古い話だからな。もしかすると、今はその内の何体かはもう居ないかも知れんし、逆に伝説に残って居る十体以外にもいるかもしれん。だが、確実に存在し、近年目撃されたのが一体居る。それが、リンドヴルムさ。何年か前、欲をかいた軍のお偉方が、十王のどれかを狩って、その魔力結晶を手に入れようと一個連隊を動員して森に入ったヤツが居る。で、森に入った歩兵一個連隊三千人の内、生きて戻って来たのは三十人ほどだったらしいぜ。当然指揮をしていた、そのお偉方も帰ってこなかったとさ。以前、軍の資料室で、そん時の報告書ってのをチラ見した事が有る。確か、そのリンドヴルムの吐く毒の飛沫しぶきが一滴、左手に掛かって、咄嗟の判断で、サーベルで手首から先を切り落として、生還した中尉だったか大尉だったかの報告書さ」


「毒?」

「ああ、その報告書によると、毒だけじゃ無えぜ。デカい火の玉を吐いて飛ばすって書いてたぜ。喰らった奴は一瞬で灰に成ったとさ」


毒に火の玉……まさか……。

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