第26話 乗客、語らい

商談の後彼らに呼ばれ、その輪に加わり、食事と酒を振舞われる。


御者と乗客から自己紹介と礼の言葉を受ける。

「本当に命拾いした。改めて礼を言うよバリー・タフトだ。それと、タッドにも分け前をやってくれて、死んだ奴の代わりにも礼を言うよ。気休め程度かもしれんが、奴のカミさんの生活の足しには成る筈だ。責任を持って届けるよ」

御者の黒人の男が頭を下げる。

ヒゲ面で一見老けて見えるが、声は案外若々しい。

二十代後半か三十代前半と言ったところか。

「ああ、タッドと言う男を助けられんかったのは残念だったが、お前さんが無事で何よりだ」



「孫共々、アンタのお陰で助かった、有難う。儂はモーリス・リーランド。この子はケイティだ」

「猫さん、ありがとう♪」

モーリスは六十代くらいだろうか。

彼の話によると、息子夫婦が流行り病で亡くなり、その為、施設に預けられていた孫娘を引き取りに行った帰りだと云う。

孫娘の方は十歳程だろう。

笑顔の可愛い娘だ。

息子夫婦が無くなったのは気の毒に思うが……しかし、孫娘と共に居られると云うのは、今のワシにとっては羨ましい限りだ。


モーリスが、自分の鞄から琥珀色の液体の入った瓶を取り出し、コップに注いでワシに手渡す。

「儂の店の常連にケトもいるんだが。彼らは結構コレが好きでな、アンタも行ける口だろ?」

さて、どうだろうな……この体に生まれ変わってから酒など口にしたことが無い。

まあ、試してみるか。

「ああ、戴こう」

甘く香ばしく、そして荒々しい味わい。

上品と呼べるものでは無いが、美味いバーボンだ。

悪くない。



「ドウマさん。さっきは夫婦共々助かりました。レオナード・コクランと申します。そしてこっちは妻のリタ」

「猫さん……じゃ無くってドウマさんでしたわね。お口に合うか分かりませんけれど」

リタが焚き火で煮たポトフを皿によそってくれる。


この世界で初めて食べるちゃんとした料理だ。

何しろ、今までは魔物の肉を焼くか煮るかして、錬成した塩をまぶす程度だったからな。

「美味い」

肉と野菜を煮た簡単な料理だ。

入っている野菜もジャガイモと人参くらい、だがそれだけでも旨味が違う。


二人は二十代半ばだろうか。

見るからに初々しい夫婦だ。

彼らは、西の肥沃な大地を目指しての旅らしい。

そこで、農場を営むのだそうだ。

もし、盗賊にその資金を奪われていたとしたら、命は奪われなかったとしても路頭に迷っていただろうと、感謝された。



「猫さん、さっきは本当に助かったわ。お陰で、あんな小汚いゴロツキに手籠めにされずに済んだわ♪お礼に今夜如何かしら?」

「姉さん抜け駆けは、ズルいわ!」

「そうよ、そうよ!」

この娘たちは、マーゴ、ドロシー、ロージーと名乗ったが。

まあ、恐らく本名では無いだろうな。

彼女たちは娼婦で、コクラン夫婦と同じく西に向かうらしい。

彼らの話では、どうやら西には肥沃な大地、手つかずの資源豊富な鉱山、そういうフロンティアが広がっていると云う。


「じゃあ、誰にするか猫さんに選んで貰いましょ♪」

はぁ~、こう言のは苦手だ……。


「いや、今日のところは遠慮しておこう」

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