第39話 悪巧み、盗み聞き

厨房の片隅に力無く、壁にもたれ掛かる様、座らされている男の胸には血痕。

血の気は無く、半目を開いたまま微動だにしない。


胸を撃たれた様だが、この宿屋に来て銃声は聞いてい無い。

恐らく、ワシらが来る以前に撃たれたのだろう。


撃ったのは奴らの様だが、何者だ?

仲間割れで殺されたか、それとも……。


「邪魔だったアーウィンをぶっ殺して、店を乗っ取って初めてのお客さんだ。お前ら抜かるのよ」

「ヘイ、ボス!」


「しかし、まあこれで、この町の宿屋は二つとも俺たちの物に成った。これからは仕事がし易くなるだろう」

確かアーウィンと言うのは、この宿の主人だったな。

あそこで殺されておる男が、そのアーウィンか。

成るほど、奴らはこの宿屋を乗っ取って、この町で宿泊する旅人を根こそぎ追剥ぐ腹か。


フッ、中々どうして、腹黒いでは無いか。


「で、ホセ、ヤツの腕の方は?」

「ああ、凄げぇ早業で銃を抜きやがった。ウーゴが身動きできねぇほどだ」

「成るほど、では奴には要注意だな」

「あ、いや、あの猫も油断ならねぇですぜ、ボス」

「ん、猫?」

「ええ、あの帽子を冠ったチビの事です」

「ああ、あのチビか……あれは、ガキじゃ無いのか?」

「ええ、ヤツは猫の亜人です。年の程は分かんねぇでしたが、あの声はガキじゃねぇですぜ」

「うむ、と成ると腕の立ちそうなのが二人と言うところか。まあ、問題なかろう。何人か仲間に死人が出るかもしれんが、死んだ奴は運が無かったって事だ」


「ボス、あのどら猫はオレにらせてくれ」

ハハ、ワシに身ぐるみを剥がされたのを、根に持っておる様だ。

「ああ、構わん好きにしろ。他の男共も同様だ、好きに皆殺しにして構わん。だが、女は殺すなよ。アレは商品だからな。それで、ホセ、兵隊は何人集まった?」

「五十人ほどです。うち十人は五人づつ、一階の部屋で待機させてます。いつでも叩き起こしますぜ」

「ま、十分だ。あと一時間ほどすれば、奴らも熟睡してるだろう。そこを襲う。良いな」

「ヘイ!」


「で、フランクの野郎は未だ戻らねえのか?」

「ヘイ、九人ほど手下を連れて、街道に向かったキリ音沙汰がねぇです」

「まったく、ヌアザに向かう橋を落としてあるのに、わざわざ無駄な事を。だいいち、駅馬車がこの町に来たって事は、フランクの野郎見逃しやがったな。当然だが、今回の儲けは、奴には分け前は無しだ」


ハハハ、成るほど、ワシが二人目に射殺したあの男、フランクと言う名か。

どうやら、バリーが懸念していた事はことごとく的中していたと云う事だな。


さて、どうするか……。

中の奴らは七人。

皆殺しにするのは容易たやすいが、音もなく始末するのは、ちと難しいか。

下手をすれば、他の部屋で待機しているこ奴らの仲間に感付かれて、二階の皆に被害が出んとも限らん。

ここは、慎重に小細工を弄するか。

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