第40話 逃走準備

奴らが動き出すまで、一時間……いや、三十分と見て動いた方が良いだろうな。

では早速、皆を逃がす準備に取り掛かろう。


そっと、扉から離れ、バーの出入口へ向かう。

少々矜持きょうじが痛むが、已む無くスイングドアの下をくぐり、外へ抜ける。


やはり、外にも幾つか気配を感じる。

宿屋を取り囲んでおる様だ。

誰も逃がさんと云う事だろう。

念入りな事だ。

だが、グラシャ=ラボラスの隠身かくりみで、姿を消しておるワシに気付いた者は居るまい。


そのまま、宿屋の横に停めてある馬車へと向かう。


馬車をよじ登り、屋根の上に乗せられている荷物を物色する。

「有った」

盗賊共から奪ったスペンサー銃だ。


コイツは、騎兵用に作られたカービンモデル。

馬上でも取り回ししやすい様に、比較的銃身は短く作られている。

今のワシの身長でも、どうにか扱えそうだな。


弾薬も漁り、スペンサーに装弾する。

スペンサーへの装弾は結構面倒だ。

ストックの後ろのふたを開け、そこから弾薬送り用のばねチューブを抜き取り、その穴に一発づつ弾を入れる。

七発込めた後、さっき抜いたばねチューブを再び戻して、ふたを閉める。

銃撃戦の最中に装弾するのは難しそうだ。


何とも、不便な時代だな。

生前、ワシが愛用しておった三八式さんぱちしきは、装弾数こそスペンサーより二発少ないが、五発束に成った装弾子そうだんしを差し込めば装弾は完了する。

スペンサーと比べれば、実に手軽な物だ。

ま、今は贅沢は言えんがな。


念の為あと三挺、弾を込め、四挺の銃を小脇に抱えて、馬車の屋根から降りる。

その内二挺は、馬車の座席の上に置き。

あとの二挺は、ワシとジムの馬の鞍に取り付けられていたホルスターに差しておく。


「さて、馬六頭と馬車か……少々面倒だが仕方有るまい」

グラシャ=ラボラスの魔法陣をえがき、ワシの馬の首筋に押し当てる。

隠身かくりみ

これで、この馬もワシ同様、ここを取り囲んで居る連中から、その姿を意識されん様に成った筈だ。

いなないてくれるなよ」

そうなれば、せっかくの術が解けてしまう。


残りの馬と馬車にも、それぞれ隠身かくりみを施し、そっと、出来るだけ音を立てず、術が解けない様に気を配りながら、馬車を宿屋の入り口まで誘導する。


どうにか、今のところ術は健在だが、馬の機嫌しだいで、いつどうなるか分からん。

今のうちに、皆を起こしてサッサと町を離れるとしよう。


再び、スイングドアの下をくぐり、二階への階段をのぼる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る