第172話 魔銃を手に入れる

ホバートの亡骸は、皮一枚で繋がったその首を、残った左腕で抱きかかえる様に前のめりに倒れる。

「次は、良き来世を……」

そう言葉を掛け、軽く手を合わせる。

この男の善悪美醜はともかく、その位の敬意には足る男だ。


ふと、足元に転がるホバートの左手が握るソレを拾い上げる。

ヤツの魔銃。

確か、ジムはライトニング・キャスターと申しておったか。

一応、薬室を確認する。

収まる弾薬は、一つは薬莢のみ、一つは未使用の物。

まあ、ヤツが二発目を撃つ前に、手首を切り落としたからな。


「フッ、やっと、まともな魔銃が一つ手に入った未使用の弾薬も……いや、もう一つ有ったな」

ホバートが投げ捨てたガンベルトの横に転がる、もう一挺のライトニング・キャスターも拾い上げる。

折角だ、これも戴いておこう。


更に、ガンベルトのポーチの中から、未使用の魔弾がもう二発。

「うむ、研究するには十分だ、申し分ない」


さて、面倒な仕事が一つ残っておる。

ワシが始末した男共の魔力結晶の回収だ。

どうしたモノか……。


このまま放って置いて、後の事はオーウェンにでも頼むか、それとも……そうだ!

そう言えば、未だ生き残りが二人ほど居った。

ヤツ等にやらせよう。


ホバートが放った魔弾の、枝分かれしたいかづちを受けて気絶している二人の元に向かう。

一応、生死の確認を取るが、問題ない、生きておる。


その気を失っておる二人の頬に、素早く軍刀の切っ先で五芒星の傷を刻む。

傷と言っても深くは無い、皮一枚、血が滲む程度だ。


その痛みでか二人が「うっ!」と呻き、目を覚ます。

「やっと起きたか」

軍刀を突き付けたまま、話しかける。


「今、お前達が置かれている状況は飲み込めるか?」

二人の男は、怯えた目で辺りを見回し、震えながら頷く。

「貴様らも未だ死にたくは無かろう。成らば、ひと仕事頼みたい。そうすれば、命ばかりは助けてやろう。どうだ?」


男達は、無言のまま頷く。

「うむ、仕事と言っても大したことでは無い。この敷地内に転がる死体の魔力結晶の回収を頼みたい。この厩舎内のモノだけで無く、ワシが木に吊るしたモノや、恐らく屋敷の中にも幾つか転がっておるだろう」

屋敷の中に侵入したジムも、何人かは始末しただろうからな。


「あ、集めた物は……ど、どうすれば良いんで……?」

「そうだな、屋敷の門の前にでも積み上げておけば良い。後は、何処と成りと立ち去れ」


ん!?

屋敷の方から、バババババン!と銃声が遠く聞こえる。

いつものコルトの銃声では無いが、一瞬で全弾撃ち尽くす様な銃声、こんな芸当が出来るのは奴しからん。

どうやら、向こうも済んだか。

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