第173話 戻って来い!

「それと、一つ忠告しておく。貴様らの頬に刻んだ五芒星は呪いの証だ。万が一、頼んだ仕事を放って立ち去れば、ああ成る」

そう、腐敗の激しいホバートのむくろに目を向ける。


「ヒィッ!」

その悍ましい光景に、二人の男の顔が引きつる。


フッ、呪いの話はハッタリだが、見た所、効果は的面だな。

敢えて、仕事の手を抜く様な事はすまい。


ん?

屋敷の方から、更に銃声が聞こえる。

もしかすると、チト手こずっておるのやも知れん。

ワシも向かうとするか。


先程投げ捨てた十四年式拳銃も回収すると。

そそくさと仕事を始める二人を置いて、屋敷の方に向かう。

子供の泣き声が聞こえる。

どうやら、ジムが助け出したか…………ん!?


妙だ、鳴き声が絶叫に変わった。

そして、ジムの名を叫んでおる。

まさか、何か有ったか!


抜き身の軍刀を携えたまま、屋敷の方に駆けだす。

チッ、アモンの権能が切れかけておる。

だが、気にしている暇は無い。


バーニーの泣き叫ぶ声は二階から聞こえる。

屋敷の東側の扉を蹴破る様にして、中に飛込み階段を探す。

有った!


階段の中頃で銃を構え、二階に上がろうとする二人の男が、ワシに気付き振り返る。

「邪魔だ!」


立ち止まる事も無く、すれ違いざま軍刀を一閃。

二人の男は、首筋から血を吹き出し、階段から転げ落ちる。


「うわぁぁぁーーーん、ジムおじちゃーーーん!」

階段を昇り切った真正面の両扉の向こうから、バーニーの泣き叫ぶ声。

その扉の手前に、撃ち殺された手下共の死体。


構わず、躊躇ためらう事無く扉を開け、中に飛び込む。


椅子に縛られたまま泣き叫ぶバーニー。

その傍には頭を撃ち抜かれ、絶命しているヘルマス親子と手下共。

集会所に居た、あのテンガロンハットの男も倒れておる。


そして、血だまりの中、うつ伏せに倒れる、見覚えのある黒いダスターコート……。

「ジ、ジム!」

まさか、ジム程の男が……しかし、どうして……ん。

右手に見えるサイドボードの上に鏡。

これで、隠身かくりみが解け、不覚を取ったか。


ともかく、倒れているジムに駆け寄り、脈を確かめる。

弱い……が、未だ微かに脈打っておる。


「ね……ねこ……ちゃん!ジ……ジム……おじちゃんが……」

「バーニー、心配するな。ジムは未だ生きておる。すまんが、もう少し、そこでガマン出来るか?」

「う……うん」

「うむ、良い子だ」


ジムを仰向けにし、改めて状態を見る。

見た所、傷は左肩と右のわき腹に銃創。

両方とも、弾は貫通して居る。

肩に受けた損傷の方が大きいが、致命傷に成るものでは無い。

恐らく、わき腹に受けた銃弾が、どこぞ太い血管を傷つけたのだろう。

それで、これ程の出血を。

マズイ状態だな……傷はともかく、失った血は……。


ともかく先ずは、この両方の傷を治さねば成るまい。

両手に刀印を結んで、左右同時にウェパルの魔法陣を描く。


そして、左肩と右わき腹に押し当てる。

「戻って来い!ジム!」

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