第49話 あの日の出来事、不運

「一昨日の夕刻の事だ、コブリン共が大挙して押し寄せてきやがった。以前から何度も、襲撃は有ったが今回は特に数が異常だった。やむなく、俺も自分の農場をあきらめ、町の皆を誘導して避難させることにした。それでどうにか、教会とその隣の集会所に町民全員が立て籠もる事は出来たんだが、それが精いっぱいでな……。町や農場、牧場は奴らに荒らされるがまま、立て籠もった俺たちも、どうなるか分からん状況だった。それで、エドが砦の方に援軍を呼びに行くと言い出してな。お前も知っての通り、正義感の強い男だ、それに腕も立つ。それで、教会に飼われていた馬二頭に、エドとうちの若いのが乗って、エドは砦に、もう一人はヌーグのフロンティアギルドに援軍を呼びに行く事に成った。二手に分けさせたのは、念の為だ。ヌーグまでは馬車で一日掛かるが、早馬なら三時間ほどで着く、砦なら二時間ほど。何とか援軍が到着するまでなら持ち堪えられるだろうと算段したのさ。ただし、勿論の事だが、彼らはゴブリン共を突っ切って行く事に成る。危険な仕事だ」


「それで、兄さんは?」


「俺は教会の塔から見守っていたが……当然、上手く突っ切ったさ。二騎共な。だが、援軍が到着したのは昨日の明け方、ギルドのガンスリンガー達だ……騎兵隊じゃ無くな」

「さっきお前さん、事故で雷に打たれてと、言っておったが?」

いぶかしむ目でワシを見下ろしているが、その問いに答える様に続ける。


「援軍のお陰で、どうにかゴブリン共を追い返して、町を解放することは出来た。町の様子は……まあ、ゲートをくぐって中を見ればわかると思うが、惨憺さんたんたるものだ……まあ、ゴブリン共に殺された者がいなかっただけでも、神に感謝しなくては成らんだろうな……。俺はその後直ぐに、若い衆を集めてエドを探して砦の方に向かう事にした。まあ正直、俺の農地がどうなってるのかも心配だったが、エドを心配して泣くジェシーと子供達が見てられなくてな……。で、昨日の昼過ぎ、砦の手前でエドの亡骸なきがらを見つけた。それで、その亡骸なきがらを調べてみたら、雷で撃たれた跡があってな。まったく……運が悪かったんだろうな……。一昨日は、雨こそ降らんかったが、久しぶりに厚い雲に覆われていたからな……残念な話だ……ジム、お悔やみを言うよ」


「兄さん……」

ジムと知り合って数日しか経っておらんが、この男はそう容易たやすく人に涙を見せる男では無い。

今も、それをかみ殺しているのが、それとなく感じる。


「ところで、念の為聞くが、争った形跡はなかったのか?」

「うん?妙な事を聞くな」

「まあ、念の為だ」

ゴブリンとやらの襲撃に落雷。

この様な不運、そうそう時期悪く重なるのも不自然だからな。


「勿論、ゴブリン共を突っ切ったんだ。ライフルは手に持っていた。それが、争った形跡かどうかと言われると……正直俺には分らん」

「乗っていた馬は?」

「さあな、エドの亡骸の近くには居なかった。雷を恐れて何処かに逃げたのかもな」


うむ、やはり、妙だな……。


「それで、兄さんの亡骸なきがらは?」

「エドは家に帰してやったよ。町はこのざまだからな、悪いが葬儀は後回しに成っている。それに、ジェシーや子供達にも別れを言う時間は必要だろうからな……」

「ジェシーと子供達は……?」

「ハァ~……、正直俺は見ていられなくてな。三人の事は、うちのカミさんに任せているよ。お前も早く家に帰ってやれ」

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