第44話 盗賊共を迎え撃つ

ニーリーを離れて暫くも経たん内に、馬車を引く馬たちが泡を噴き出してきた。

宿屋から此処ここまで、全速で走らせてきたからな、やむを得まい。


「バリー、此処ここまでだ。馬車を停めよう」

「し、しかし猫の旦那……」

「どのみち、馬が持たん。此処ここまでだ」


バリーが馬車をゆっくりと停める。

「ジム、猫の旦那、この後、どうなさるんで?」

此処ここで、奴らを迎え撃つのさ」

「そう言う事だ」


「ジム、猫の旦那……」

「乗客は馬車から出ん方が良い。お前さんも、御者台に居ろ。追手はワシとジムで始末する」

「しょ、承知しました」


「さて、お出ましだぜ、旦那」

馬車の後方、ジムの目線の先に土煙が舞っておる。

やはり、追って来たか。


馬を降り、もう一つ小の刻印の弾倉を取り出し、ジムに投げて渡す。

「ソイツも使って構わん。合わせて十六発。それだけ有れば、お前さんならば事足りるだろう」

多く見積もっても、それ以上後ろに逃がす積りは無い。


「弾倉の交換の仕方は分かるな?」

「ああ、問題無い。この前見せて貰ったからな」


「では、参るか。ワシを抜け、馬車に近付く者は撃ち殺せ。馬上でライフルを構えた奴らより、拳銃を持ったお前さんの方が射程は遥かに長い。無傷で、皆殺しに出来る筈だ。間違ってもワシを撃つなよ」

「フッ♪旦那こそ、俺の射線の前に飛び出すんじゃぇぜ……って、旦那?」


再び、グラシャ=ラボラスの隠身かくりみで姿を隠す。

更に、アモンの魔法陣で、身体能力を上げる。

まあ、目の前の敵は只の人と馬に過ぎん。

今回は、軍刀に電撃を付与する必要も無かろう。


舞い上がる砂煙の先頭に、騎馬が確認出来るほど近くに迫って来た。

軍刀の鯉口を切り、全力で駆け出す。


瞬時に騎馬の目の前に躍り出て、軍刀を一閃。

馬の脚を切断。

馬は土煙を上げ、地面と衝突する。

その倒れた馬に巻き込まれて、数体の騎馬も投げ出される様に転倒。


落馬した盗賊共は死んではおらんが、機動力を失ったこ奴らなど、脅威にも成らん。

混乱して、暴れる騎馬の足を狩り取る様に、切りつけていく。


パーン、パーン!

遠くで、十四年式の銃声。

ワシの斬撃を逃れた騎馬を、ジムが的確に射貫いておる。

フフ、向こうは心配無かろう。


バン、バン、バン!

さすがに、もう隠身かくりみの効力は消え失せた。

奴らも、ワシの存在に気付いておる様だ。

だが、奴らの放つ弾丸は、てんで明後日の方に飛んでいく。


隠身かくりみは解けても、この砂煙。

ろくにワシが見えておらんのだろう。


「う、撃つんじゃぇ!同士撃ちに成るぞ!」

「ハハッ、その通り!だが、撃たねばワシをれんぞ!」

そう挑発しながら、その男の前を通り過ぎる。


バン、バン!

ワシが上げた声を目掛け銃声が轟く。

だが、そこに、ワシの姿は既に無い。

「ぐわっ!」

断末魔の声が聞こえる。

さっきの男が、仲間の銃弾で命を落としたらしい。

フッ、因果な物だな。

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