第157話 【ジム、潜入】 頼んだぜ、旦那……

旦那と別れて西側へ回り、屋敷の陰に身を潜める。


それにしても、旦那が魔法で生み出したスリングショットっての、恐ろしい威力だったぜ。

音もマズルフラッシュの無え。

しかも、威力も申し分無え。

あんなので武装された敵に奇襲なんかされたらひとたまりも無え。

まあ、そもそも、バアルの槍だっけか、リンドブルムを吹き飛ばしたって言う、あの魔法相手にゃ、一個師団を指揮したって勝てる気がし無えぜ。


心底、旦那が敵で無くて、良かったぜ。

そんな旦那が、味方に付いてるんだ、絶対助け出してやるぜ、バーニー待ってろよ……。



時間は、未だ早朝。

屋敷の影が長く伸びている。

旦那に掛けて貰った隠身かくりみって魔法の効果と相まって、その陰に身を潜めるのは簡単だ。

暫く、動きが有るまで、此処ここで静に待つとするさ。



時折、見回りの男が横切る。

旦那の魔法は信用しちゃぁ居るが、その都度緊張が走る。

つい銃に手が伸びそうに成る。



そして、暫く待つ内に、庭先を見回る人影が少なく成る。

気配も、消えていく。


見回りが屋敷の中に引っ込んだ……?

いや、そうじゃ無え。

恐らく、旦那が一人づつ始末しているんだ。

ホント、おっか無え旦那だぜ。


ガッシャーンッ!

屋敷の反対側から聞こえて来る。


どうやら、旦那が始めたらしい。


屋敷の壁越しに、中の気配が動くのが分る。

「何ですか、今の音は……?」

ん、この声……まさか!

思わず、コルトに手が伸びる。


コンコン!

と、ノックの音が微かに聞こえ、壁越しにコルトをぶっ放したい衝動を抑える。

そうだ、今は復讐より、バーニーの救出が先だ。


「ホ、ホバートさん、居間に来てください。き、奇妙な死体が投げ込まれました!」

そう、話し声が聞こえ、壁の向こうから気配が消える。


ホバートの野郎……。


奇妙な死体ってのは、何の事かは知ら無えが、旦那が、その死体を放り込んだのは間違い無え。

で、その旦那の誘いに、ホバートが乗ったって事は…………。

ハァ~……頼んだぜ、旦那……。


軽く一つ深呼吸して、気持ちを切り替える。

兄さんのかたきは旦那に任すさ、俺はバーニーを助け出す事だけを考えるんだ。


ガッシャーンッ!

更に、もう一つ同じ物音。


恐らく、旦那がダメ押しで、何か仕掛けてるってとこだろう。


屋敷の中の気配が慌ただしく動き出す。


少し、中の気配が落ち着くのを待って、西側にある小さなドアの前へと向かう。

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