第94話 クイーンの幼生
外は未だ薄暗い。
馬にまたがり、町のゲートまで走らせる。
ゲート付近には、既に数人の男たちが横転した幌馬車を囲んでいる。
オーウェンと自警団の男達、それとギルドのガンスリンガー三人だ。
馬を降り、ジムと二人、彼らの元に。
「ジム、それと……ドウマと呼んで構わんか?」
「うむ、自由に呼んでくれて構わん」
「まだ、夜も明けておらんのにスマン。とにかく、コイツを見てくれ」
オーウェンに促され、横転した幌馬車の後方に誘導される。
そして、その積み荷が目に入る。
「これがゴブリンか」
成るほど、バリーが小さな小鬼と言っておったが、確かにそんな感じだな。
角こそないが、体躯はワシと同じくらいか一回り小さい、緑色の肌、醜悪なその容姿。
その死体は一体だけでは無い、何体も折り重なる様に積み込まれている。
「ヤツら、もう隠す積りも無いらしい。敢えて、これ見よがしにこんな事を!」
オーウェンが怒りをかみ殺す様に、そう呟く。
「もう、と云うと、やはり以前から?」
「ああ、薄々はな。今までは、ゴブリンの
「タイミングと云うと?」
「襲撃の後、町を整備し直して、家を修復して、町がいつも通りに戻ったと思ったら襲撃される。それを何度も繰り返していたからな。人為的な物は感じて居たさ。当然、そうなるとそんな事をしそうなやつ等の心当たりは一つしか無い。だが、証拠も無くてな……」
成るほど、さすがはこの町を守る自警団の団長だけのことは在る。
以前から気付いて居たと云う事か。
「それとだ、最悪な事に……コイツを見てくれ」
オーウェンはそ云うと、折り重なるゴブリンの死体を一つ、蹴る様にしてどける。
すると、その下に、妙な死体が一つ。
上半身は普通のゴブリン共と変わらん。
だが、下半身は異様だ。
まるで、蜘蛛の胴体の様では無いか。
しかも、そこから同じく蜘蛛の様に、四対の足まで生えておる。
そして、他のゴブリンよりも、ふた回りは大きい。
「ん、コイツは?」
ワシの問いに、ジムが呟く様にして答える。
「こ、こいつは……クイーン……クイーンの幼生体じゃ無えか……」
「クイーンだと?」
「ああ旦那、ゴブリン共がこれほどまでに増殖する為には、普通のゴブリンの姿じゃ到底、物理的に無理って話さ。だから、クイーンってのは産み増やす為にこんな姿をしているのさ」
「お前さん、クイーンの幼生体と言ったが?」
「こいつは、まだ、生まれたての子供さ。そのうち、
成るほど、小鬼とは言え、それを何千と産み落とすには、姿を変え、巨大化せねば成らんと云う事か。
そして、その巨体を維持し、且つ、更に一族を生み増やす為にどん欲に成ると。
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