第60話 この町を捨てて

「で……旦那……コイツは……なんか……不公平じゃ……無えのかい……?」

切り落としたカウ・リザードの尻尾を、ワシとジムの二人で担いで、家の方に向かう。


ジムの不平の原因は、その尻尾の形状に在る。

まあ、大抵のトカゲの尾は根元が太く、先に行くにつれ細くなる。

カウ・リザードとやらとて、その例に漏れることは無い。


つまり、巨大な尾の根元側をジムが、先の方をワシが担いでおると言うことだ。

「気にするなジム、気のせいだ♪」



ドサッ!

厨房に辿り着き、中央に有る大きな作業台にカウ・リザードの尾を降ろす。

ジムはと言うと……息を切らしてヘタレ込んでおる。


「おや、まあ、見事な切り口だね♪ジム、あんた見ないうちに腕を上げたじゃない♪」

「いや、マーサそいつは……。ん、客人かい?」

リビングの方からだろうか、話し声が聞こえて来る。


「はぁ~、町長さんだよ……。町の跡片付けとか色々有って忙しいんだろうけどさ、今頃お悔やみだとさ。それに、話はそれだけじゃ無いみたいだね……」

「その話って?」


「例の話だよ……。うちの旦那はもう腹をくくってるみたいなんだけどね……あたしゃ、まだ割り切れ無くってね……」

「例の話?腹をくくるって……何の事だい?」

「そう言やあんた、帰って来たばっかだもんね。はぁ~……つまりその、この町を捨てて何処かに移り住むって話さ」


「この町を捨ててって!」

ジムが目を見開きあ然としておる。

「ここに来る前オーウェンに、もう詰んだかも知れんって聞いたが、まさかそこまで……」


「さすがに今回の襲撃で、町の借金も限界超えちまってね……それで……」

へたり込んでいたジムは立ち上がると、慌てて厨房を出てリビングの方へ。


軍帽のつばに軽く手を触れ、マーサに挨拶を済ますと、ジムの後に付いてリビングへ向かう。



「コリン、町を捨てるってどう言うこった!」

「ん、おお、ジムか!?オーウェンから帰って来たと聞いておったが……。随分立派に成ったもんだ、はっはっは」


「はっはっは、じゃ無え!町の事だ!」

「おお、済まんかったな……お前さんにもちゃんと説明せんとな……。だが、その前にエドの事、改めてお悔やみを言う。町の為に助けを呼びに向かって、運悪く雷に打たれたなんてな……。本来なら直ぐにでも、町を上げて葬儀をしてやりたいところなんだが……色々とまま成らんでな、済まんなジム」


禿げあがった頭を、深々とジムにこうべを垂れる。

マーサは今頃お悔やみをと、不満そうであったが、見た所この男には含むところは無さそうだ。

事実、多忙を極めておったのだろう。


「そうそう、この町の事じゃったな」

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