第59話 肉の調達

「コイツのシッポはデカくて美味うまいんだ。それに、これだけで家族が当分食っていける。それで食い終わる頃には、また新しいシッポが生えてくる。どうだい、なかなか経済的な家畜だろ」


ジムにそう言われてあらためて見ると、確かに何とも巨大な尾をしておる。

尾の付け根の方は、牛の胴回りほど有るか。

成るほど、あのなたが無駄にデカいのはその為か。


「って事で、宜しく頼むぜ、ダ・ン・ナ♪」

とか言い言いながらワシに、その巨大ななたを差し出す。


「それで、ワシに手伝えと。しかし、お前さんの方が慣れておるだろう?」

「ああ……いや、その何だ……家畜にストレスを掛け無い為に、コイツに痛みを与えず、一太刀でシッポを切り落とすってのが、一人前の証って事に成ってんだが……オレの場合その前に家を出たもんでな。まあ、それに旦那の方がこう言うの得意だろ」


「ハァ~、已むを得んな……」

町の宿屋は使えんし、今日は此処ここで厄介に成る事に成る。

まあ、一宿一飯の恩義と考えれば、仕方なかろう。


ジムからはなたを受け取らず、軍刀の鯉口こいくちをカチッと切り、その巨大なカウ・リザードの尾の横に向かう。


「ちょっと待った、旦那!」

ジムが慌ててワシを止める。


「ん、どうしたジム?」

「どうしたもこうしたも、まさかそのサーベルで食いモン切る気かい、旦那?」

「ワシの軍刀だと、何ぞマズかったか?」

「ハァ~、旦那……この前、そのサーベルで一体何人の盗賊叩き切ったんだい?」

「そうだな……よく数えておらなんだが……ん!成るほど、確かにワシの軍刀で切った物は、子供達には食わせられんな」

「オレだって遠慮するぜ!」

森の中では、この軍刀で捌いておったからな……ついウッカリしておった。


「それじゃ旦那、あらためて頼むぜ」

と、巨大ななたを受け取る。

刃渡りだけでワシの身長ほどある。

少々振り回し難そうな得物だが、まあ、戦うわけでは無い。

こヤツの尾を切り落とす程度なら、なんとか成ろう。


だが、問題はやはり……ワシの身長だな。

単にこのままなたを振り下ろしただけでは、上手く両断出来んかもしれん。

まあ、力業で不可能と迄は言わんが、このカウ・リザードとやらが、切られた事に気付かんほど痛みを与えず、と迄には行くまい。


已むを得ん。

本来はこの様な事に使う技では無いのだがな……。


なたを肩に担ぐように構え、軽く飛び跳ね拍子を刻む。

神楽舞の拍子だ。


徐々に高く、軽やかに、そして、力強く……今だ!

半歩前に出る様に飛び跳ね、その勢いを駆って、神速の速さでなたを振り下ろす。


なたは、陽炎かげろうをすり抜けるかの如く、何の抵抗も感じない。


そして、一瞬の間を置いて、巨大な尾がドサッと地に落ちる。

血もほとんど流れておらん。

で、切られた本人の方は……どうやら気付いてはおらん様だな。

何事も無かったかの様に、子に乳を与えておる。


ヒュー♪と背後でジムが口笛が聞こえる。

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