第151話 【ドウマ、陽動】 ホバートの行軍

男が次弾をぶっ放して隠身かくりみが解ける前に、すかさず飛び付き悲鳴が漏れぬ様に口を塞いで、同時に男の右わき腹に軍刀を刺し込みそのまま心臓を貫く。

男は立ったまま絶命し、力無く膝を折る。


ワシは、地面を強く蹴って、男を抱えたまま後方に飛びずさる。

そこにも、木に吊るした男の死体がある。


ん、ホバートが合図し、銃撃を止める。

別にワシに気付いた分けでは無さそうだが、無駄な銃撃を加えておる事には気付いたらしい。


そして、今まで銃撃してった内の一人が叫ぶ。

「オイ!ビンスの野郎が居無ぇぞ!」


フッ、やっと一人消えた事に気付いたか。

ヤツ等の意識が小屋の屋根に集中しておったお陰で、ワシが刺殺した男の隠身かくりみは解けておらん。


男に刺した軍刀を引き抜くと、髪を鷲掴わしづかみにし、その刃を男の首に振り下ろす。

隠身かくりみの魔法陣は男の体の方に押し当てた。

当然、切り離されたその首は、隠身かくりみの影響下からも切り離される。


そしてその首を呆然としてるヤツ等目掛けて放りなげ、すかさず、二つの死体の隠身かくりみを解除して、その場を離れる。

男どもがだらしなく悲鳴を上げる。


バーン!

ホバートが、天に向けてスコフィールドをぶっ放し、生首を放り込まれて慌てふためく男達を収める。

「皆さんみっとも無いですよ。そうやって慌てふためかせるのが、狙いなのが分から無いのですか!何者かは知りませんがね」


ホバートの視線が、二つの死体へと向く。

さて、ヤツはどうする?

ワシの挑発に乗るか、それとも……。


「冷静に成って下さい。その何者かは、私達より少数の筈。正面から攻めて来ないのはそう言う事です。畏れる事など有りませんよ。ああやって死体を吊るして、私達をおびき寄せようとしていますが、逆に追い詰めてやりますよ」


フッ、乗って来たか。

まあ、ヤツ等とてそれしかあるまい。

このまま引きこもっては、ワシに一人づつ、人知れず惨殺され続けると言う事だからな。


ホバートが手下共に指示を出す。

ほう、コイツは面白い。

隊列を組みおった!


横一列に十人、それを三列並べる。

まあ、最後尾は、ワシが二人始末した分だろう、八人しかおらんがな。

そして、その後方でホバートが両手に二挺のスコフィールドを手に行軍しだす。


手下どもの動きも、まんざら素人でも無さそうだ。

そう言えば、南北戦争が終わったのが二年前と、ジムとトマスが言っておった。

こ奴等はその軍人崩れと言ったところか。


中々どうして、こうなると少々手を出し難い。

いっその事、背後に回って、そのホバートを……いや、ソイツは無理だな。

ジム程では無いにしろ、ヤツにも隙が無い。

忍びよれば、隠身かくりみは解けてしまうだろう。


はてさて、厄介なものだ。

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