第125話 放つ、バアルの権能!

だが、結局のところは、焼け石に水。

怒り狂った女帝エンプレスが、ジムに向け執拗に石礫いしつぶてを投げつける。


ジムは、軽やかに身を翻し、上手くかわしておるが……。

ワシも再度、十四年式を抜き、中の刻印の弾倉を差す。


これで、どうにか出来るとも思えんが、女帝エンプレスの気を引き付けることぐらいは出来る。

ダン、ダン、ダン!

うむ、やはりジムの様に上手く、目を射抜くことは出来んか。


ふと、女帝エンプレス石礫いしつぶてかわしながら、町の方に目をやる。

壁の上からは、もう発火炎マズルフラッシュは見えん。

どうやら向こうは、済んだ様だ。


まあ、それは良い事なんだが……と成れば、ワシらが注目されてると言う事だ。


この期に及んでは、女帝エンプレスたおす為には、ワシが大技を放つしか思い付かんが。

下手に、放つと悪目立ちすることに成る。


薄っすらと、夜も明けて来ておる。

少々壁からは距離はあるが、確かギデオンが望遠鏡を持っておった。

小さなものではあったが……。


さて、上手く誤魔化す方法は、無い物か……。


ターン、ターン、ターン!


ジムが飛び掛かてくるゴブリンを二匹撃ち抜き、果敢にも女帝エンプレスに一発お見舞する。

当然、女帝エンプレスには通用しておらんがな。


だが、奴の動きには迷いが無い。

軽やかにかわし、正確に引き金を引く。

一見、女帝エンプレスを目の前に、詰んだかの様なこの状況で、あれ程の動きを出来る者など、早々居らん。

ゲティスバーグの炎龍、本人はその二つ名を気に入っておらん様だが、なかなかどうして、その名に恥じぬ英雄では無いか。


「フッ、ならば、やはり此度こたびも、こ奴に英雄に成って貰うとしよう」


左手の軍刀を地面に突き刺す。

ダン、ダン、ダン、ダン、ダン!

群がるゴブリン共を中の弾丸で薙ぎ払う様に撃ち抜き、左手で隠身かくりみの魔法陣を素早くえがく。

撃ち終わると同時に、その魔法陣を胸に押し当てる。


そして、更にもう一つ魔法陣を描きながらジムの方へ向かって走る。


「ジム!ハッタリで構わんコルトを抜いて、女帝エンプレスの胸元を狙え!」

「えっ!?旦那、どういう……」


「ヤツを仕留める!ワシを信じろ!」

「何だか知ら無えが、分ったぜ!」


ジムは目もくれず、背後のゴブリンを左手に持ったスペンサーで撃ち抜きつつ、右手でコルトを抜き女帝エンプレスに照星を合わせる。


そのジムの目の前に、滑り込む様に片膝を付き、左手の刀印を女帝エンプレスの胸元に向け突き付ける。

「目をつむれ!直視するなよ!」

「え!?」


ワシの左手の刀印の先に浮かぶは、バアルの魔法陣。

そして、放つ権能は当然……。

「貫け、バアルの槍!」


ズドーーーーーン!!


閃光が一瞬、荒野を白く染める。

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