第124話 大技を放つしかあるまい……

ワシとジムが左右に分かれる様に、別の岩陰に飛び込む。

その刹那、ズババババ!と無数の何かが地面に突き刺さる。


いや、何かでは無い石だ。

岩陰から顔を出し、女帝エンプレスの手元を見る。


何かを握りつぶす仕草、そして、その腕を力強く振り下ろす。

咄嗟に、頭を岩陰に隠す。


ズババババ!


再び、無数の石が、地面に突き刺さる。

当然、ワシらを取り囲んでおったゴブリン共はその巻き添えを喰らって、散弾を浴びた様に体中から血を流し倒れる。


成るほど、ヤツのあの握りつぶす仕草は、自身が纏う岩の鎧を握りつぶしておるのだ。

そして、それを石礫いしつぶてとして、手当たり次第に投げ付けて来ている。

さっき、ワシが始末した女王クイーン同様、我が子だろうゴブリン共など意に介さずにな。


「どうする、旦那!もう、旦那から貰った弾が無え!」


さて、如何どうしたモノか……。

一応、この間の事もある。

念の為、予備の魔力結晶は幾つか持ってきてはおる。

これで、ヤツの石礫いしつぶてを凌ぎながら錬成する事は可能だ。

弾を、補給して、もう一度仕掛けるか…………いや、同じ事だ。


弾をいくら錬成したとて、撃てる銃が限られておる。

ワシの十四年式八発、実際は魔弾の権能が有効な六発、それと、ジムのコルトの六発。

それで、仕留め切れんなら、再度、装弾と魔弾の魔法陣を描く必要が有る。

その間に、ヤツの鎧は再生する……さて、厄介な事だ。


ギェェーー!


女帝エンプレスが投げつける石礫いしつぶての弾幕の中を、血だるまに成りながらゴブリン共が襲って来る。

咄嗟に、十四年式をホルスターに仕舞い、軍刀で切り伏す。


何とも、非力なゴブリンと言えど、こう命知らずな戦い方を絶え間なくされると、これはこれで驚異だな。


ターン!

ジムも、自身のコルトを仕舞い、担いでいたスペンサーで応戦して居る。

だが、いくらジムとて、いつまでもその様な戦い方を続けると云う分けにも行くまい。

その内、弾薬も尽きる。


それに、結局のところ、あの女帝エンプレスを始末せんことには、このいくさは終わらん。

やはり、大技を放つしかあるまい……。


女帝エンプレスが動き出す。

岩陰に隠れるワシらに業を煮やしたのか、右手に回り込んで、石礫いしつぶてを投げつけて来た。


咄嗟に、岩陰から飛び出し、回避。


ジムは何を思ったのか、スペンサーを女帝エンプレスの頭に向ける。


そして、何かを感じ取った女帝エンプレスが右手で顔を覆う。


ターン!


キシァァァーーー!


ジムの放った銃弾は、岩に覆われた右手の指の間を抜け、女帝エンプレスの右目を射抜く。

「なんと、あ奴、当ておった!」

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