<急襲、救出>

第126話 ヤツを始末したのは、お前さんだからな

ワシが放ったバアルの槍は、白しらみかけた空を、一瞬真昼よりも明るく辺りを照らし、女帝エンプレスの上半身を吹き飛ばして、そのまま地平線の向こうに消えていく。


「うっ!だ、旦那、今のは……」

振り返ると、ジムが目を押さえておる。

「何だ、お前さん、目をつむらんかったのか?」


周りを見ると、生き残って居るゴブリン共も目を押さえ、のた打ち回って居る。

そして、暫くも経たぬうちに、そのゴブリン共が奇声を上げ、南に向かって逃げて行く。


女帝エンプレスたおされた事に気付いての撤退か、バアルの槍に恐れおののいての撤退かは分からんがな。

ともかく、このいくさは終わったと言う事だ。


十四年式拳銃をホルスターに仕舞い、地面に突き刺した軍刀を抜いて鞘に納める。


で、ジムは……未だ目を押さえうずくまって居る。

うむ、あの距離でアレを直視したと成ると……ちと、マズイやも知れん。

已むを得まい。


ウェパルの魔法陣を描いて、その右手の刀印をジムの両目に軽く当て治癒する。

「どうだ、ジム?」

「ふぅーー。なんとか、痛みが治まって来たぜ。目も見えて来た」

「そうか、ハハハ、スマンかったな」


「で、今のはいったい……それに、女帝エンプレスは?」

「ま、見ての通りだ」


ジムが目をしばたたかせながら、女帝エンプレスむくろに目をやる。

「見ての通りって…………な、なんだこりゃ!?」


女帝エンプレスは上半身を失い、蜘蛛の様な下半身のみが、大地に伏せる様に横たわっている。

まとっておった岩の鎧も崩れておる。


「まさか、さっきのは……旦那の魔法……?」

「うむ、バアルの槍、リンドヴルムを始末したのと同じ魔法だ」


「リ、リンドヴルムって……。はぁ~、全く……エライ物を見せられちまったぜ」

そう言いながら目を押さえる。


「ん、まだ痛むか?」

「いや、大丈夫さ。だけど、良いのかい?人前でれほどの魔法ぶっ放して」

ジムが町の方に視線を向ける。


ワシが錬成した壁の上に、並ぶ人影。

まず、大勢の者に今の魔法を見られたに違いない。

だが……。

「フッ、問題ない。何しろ、ヤツを始末したのは、お前さんだからな」

「なっ!?ソイツはどういう……?」


「バアルの槍を放つ前、隠身かくりみを使ったのさ」

隠身かくりみ?ソイツは、旦那が姿を隠す時に使ってた魔法のことか。だが、俺には旦那が見えてたぜ」


「うむ、それは、お前さんにワシが声を掛けたからな。隠身かくりみは声を聞かれると術が解ける性質を持つ。だが、そのワシの声は町までは届いておらん」

「って事は……!?」


「うむ、まあ、そう言う事だ。壁の上から見て居った者には、女帝エンプレスにコルトを構えるお前さんだけが見えてった筈だ」

バアルの槍を放った轟音で、町の皆にも隠身かくりみは解けただろうが、バアルの槍の閃光でその事に気付く者は居るまい。

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