第21話 一つ謎が解けた

「おい!どうした?早く出てこんと、コイツの命は無いぜ、こっちにはまだ馬車の乗客も人質に出来るんだからな!」

大柄な男が御者を盾に取る様に羽交い絞めにし、銃を突き付けている。

その左右に、残りの二人が片膝を付いて此方こちらにスペンサー銃を構えている。


早くどうにかせんと、乗客も引きずり降ろされて盾にでもされると、さらに厄介な事に成る。

こう言う時なんぞ良い魔法でも有れば良いのだが、如何いかんせんワシの魔法は大技ばかりだからな……。

しかも、ケットシーと成ってさらに融通の利かんモノに成っておる。


威力の弱い魔法と成ると、レラジェの矢を三本放つと言う手も有るが、あれでは命は奪えても相手を即死させられん。

そうなると、人質の命も危うい。


「うん、何だアレは?」

馬車の背後から手だけが覗いておる。

恐らく乗客の一人が抜け出したか。


どうやら、ワシを指差しておる様だ。

それも、潜んで居るワシを、射抜くほど正確にだ。

あれが指で無く銃口なら、ワシは身動きが取れん様に成っとった処だ。

何者だ?


ん?

その指は方向を変え、あの大柄な男を、ちょんちょんと指差す。

そして、今度は指を曲げた……自分を指差しているのか?

その後、二本の指で、片膝を付いている二人の男たちを指差す。


「ほう、面白い。つまりはこういう事か。ワシがあの大男を。そして、残りの二人はヤツが始末すると。ハハハ」

愉快な奴だ。

何者かは知らんが、森の中に潜んでおるワシを正確に指差したほどだ。

腕は信用して構わんだろう。

成らば……。

「その話、乗った」


奴に見えておるか分からんが、親指を立てサムズアップする。

フッ、見えておるらしい。

奴もサムズアップを返してきた。


さて、成らば少々小細工させて貰おう。

十四年式拳銃をコッキングし、念の為、薬室に残っている弾を捨てる。

これで、コイツの中に弾薬は残っておらん。

そして、十四年式拳銃を奴らの目の前に投げ捨てる。


「分かった!今姿を現す!撃つな!」

そう奴らに声を掛けながら、軍服のポケットに幾つか入れていた魔力結晶の小さな破片を取り出し、右手の人差し指と中指の間に挟み、そのまま刀印を結ぶ。

そして、その刀印でハルファスの魔法陣を描く。

ただし、未だ魔法陣は発動させない。


軍帽を目深くかぶり、森の中から姿を現す。

右手の刀印は崩さず、念の為奴らには見えない様に頭の後ろで手を組む風を装う。


「ん?ガキだと!?フザケんじゃねえ!さっきの男を出せ!ガキに身代わりさせて恥ずかしくねえのか!」

どうやら、ワシの姿を見て勘違いしているのだろう。


フッ、しかし、これで一つ謎が解けた……どうやらワシはお子様サイズと言う事らしい。

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