第146話 【ホバート、戦慄】目の前で……だと!

ヘルマスが嫌な含み笑いをしながら話し出す。

「まあ、良いでしょう。手下をお貸ししましょう。お望み通り二千ドルもね。ただし、此方こちらも一つ条件が有ります。手下共は、私の大切な家族です。万が一の事など考えたくも無い。ですが……もし、その万が一の事はあれば、指揮権をゆだねるホバートさん、アナタに香典を出して頂く。そうですな一人に付き200ドル、如何いかがですかな」


ケッ!

十人死ねば、報酬はゼロに成る。

それ以上死ねば、私の借金に、と言う事ですか。

コイツ等相手に借金を作る気なんて、毛頭無有りませんよ

ですが……。

「まあ、良いでしょう。その条件でこの仕事、お引き受けしましょう」

フッ、いざと成れば、私がコイツ等を皆殺しにするだけの事。




借りた手下共に続いて、外に出る。

こんなつまらない仕事で、命を落とす気は無いし、怪我をする気もさらさら無い。

いざと言う時は、コイツ等を盾にすれば良い。

まあ、私の実入りが減りますが、死んでは元も子も無いですからね。


用心深く辺りを見渡す。

ん!?

アレはいったいどう云う事ですか!


向こうに見える、崩れかけた小屋の梁にも死体が……。

だが、重要なのはそこじゃ無い。

何も無かった筈の小屋の梁に、突如死体が現れた……。

少なくとも、私の目にはそう見えた。

誰かが目の前で吊るし上げた分けじゃ無い。


どんな手品を使ったか知りませんが、あそこで異変が起こったからには、あの近くに何者かが居る筈。

ですが……これは明らかに、誘っている。

と、言う事は罠……。


まあ、良いでしょう。

此処ここで、出し惜しみしても、意味は無い。

先ずは二百ドル、ベットさせて貰いますよ。


適当な手下の一人に指示を出し、梁に吊られた死体を見に行かせる。

その男は一つ頷くと、ショットガンを手に慎重な足取りで、小屋の前へと歩みを進める。


見た限り、この男の身のこなしは悪く無い。

恐らく、元軍人に違いない。

まあ、今の世の中、食い詰めた元軍人は多く居る。

あのチビは、そんなゴロツキ共を集めて、盗賊から成りあがったと聞く。

あのチビに出来て、私に出来ないなんて事は無い筈……いずれ私も、ヒヒヒ♪


刹那、小屋の近くまで行った男が消える。

それも、唐突に。

私の目の前で……だと!

吊られた死体が突然現れたのとは、まるで逆。

一体、どう云うことだ!

何が起こった!?


そして更に突然、目の前に男が落ちて来る。

それも……喉がら鮮血を吹き出してのた打ち回った挙句、動かなくなる。


ん?

コイツは今さっき目の前で消えた男!

それが何で、空から?

いや、違う!

あの小屋の屋根!

だとすれば、コイツは消えたんじゃ無い。

どうやったかは知りませんが、屋根の上に連れ去られて、そこで喉を……。


ならば敵は!

「や、屋根の上です!」

慌てふためく手下共に指示を出し、銃撃させる。

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