第55話 不運×5、有り得るモノか!

「ジム、例えばなんだが、そのゴブリンとやら、人為的に町にけし掛ける事は可能か?」

ジムは腕を組んだまま、考え込む様に目を閉じる。

「うーん……」

「どうした、ジム?」


「考えた事も無かったが、可能か不可能かって話なら、可能だ。ゴブリン共ってのは、蜂や蟻なんかと同じで、女王に統率されている。単純な話、その女王ゴブリンを未成熟なうちに何処どこかの巣から捕まえてきて、けし掛けたい町の近くに横穴でも掘って、そこに住まわせちまえば良い。そうすれば勝手にコロニーが作られて、自ずと獲物を求めてその町をゴブリン共が襲う事に成る。更に、そのコロニーのゴブリンを何匹か殺して、その死骸を町に放り込んでやれば、その仲間の死の匂いに釣られて、ゴブリン共が町を襲撃する。実際、戦時中に南軍の奴らがそんな戦術で、味方の砦に嫌がらせしていたと聞く。だが、戦争も終わってもう二年経つ。この町にそんな面倒な事を仕掛けて何の意味が?それに、落雷で死んだ兄さんと何の関係が?そろそろ、話してくれても良いんじゃ無いか、旦那」


「うむ、そうだな……単刀直入に言おう。お前さんの兄は落雷で死んだのでは無い。十中八九、何者かに殺害されたとワシは考えておる」

「殺害されたって!?おいおい、さっき旦那は、兄さんの胸の傷を見て、落雷の証拠だって……」


「ああ、だがリヒテンベルク図形が刻まれるのは、なにも落雷だけとは限らんさ。強い放電を浴びれば、同じことだ。リヒテンベルク図形は、放電を受けた個所から枝が伸びる様に放射状に広がる」

「強い放電って……」


「ジム、雷は何処どこから落ちる?」

「何処からって、そりゃ空からさ」


「で、お前さんの兄は何処に、そしてどうリヒテンベルク図形が広がっていた?」

「何処にどうって……胸に、丁度心臓の真上辺りだ。そこから円を描く様に放射状に……!?」


「気付いたか」

「空からじゃ無ぇ、兄さんの真正面から!」


「うむ、そういう事だ。確かに、稀に少し離れた所に落ちた落雷の放電が、枝分かれしたり、地を這ったりして、横っ飛びの落雷を受けたと言う話も聞かんでは無い。だが、それなら馬はどうした?馬に乗って居れば、当然騎手の正面には馬の首が有る。横っ飛びの落雷を受けたとするなら、胸に当たる前に馬の頭に落ちるのでは無いのか?」


「だが、兄さんの乗っていた馬の死体は無かった……いくらタフな馬でも、頭に雷を喰らって無事な馬なんて居無え」


「つまりだ、不運にもゴブリン共に襲撃され、不運にも落雷に見舞われ、それは不運にも真正面からの横っ飛びの落雷、不運にもその放電は馬の頭を避け直接その体に、しかも不運にも心臓の真上に。さてジム、お前さんの兄は、いったい幾つの不運が重なって命を落とす事になった?」

「幾つって……」

「フッ、これ程不幸が幾つも重なる事など、有り得るモノか!」

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