第106話 何とも残酷な光景に見えなくもない……

「ところで旦那、あの罠にどうやって火を着けるんだ?まあ、誰かが松明でも放り込めば良いんだろうが、それだと、ソイツが危なく無いか?」

ゴブリン共が銃や、魔法を放ってきた場合、荒野のど真ん中で松明を持って立ってるなぞ、良いまとだからな。

それに、そもそも、原油を撒いた近辺に松明を持った人を立たせるなどすれば最悪、気化した石油に引火せんとも限らん。


まあ、罠の中の何か所かに原油の詰まった樽を置いて、機を見計らってその樽を狙撃するのが無難なのだが、いまいち、確実性に欠ける気がする。

上手く着火するだろうか……。

「うむ、その事だが。レナードの魔弾、何発か残っておらんか?」

「ああ、成るほど、確かもう何発か持ってきてた様な事を言ってたぜ」

「なら、それを、お前さんも一発分けて貰っておいてくれ。その時が来れば、お前さんかレナードのどちらかが、罠に置かれた樽を撃ち抜けば良い」

「承知したぜ、旦那」



日も高く昇り、昼過ぎ頃、町の西から吉報が届く。

西のゲートに駆けつけると、ヘトヘトに成った御者と馬、そしてその後ろに、その馬が引いていた荷馬車が一台。

どうやら、トマスの荷が届いたらしい。


銃と弾薬、それと医薬品だ。

御者の話では、トマスは店に戻ると、すぐさま店に有る銃と弾薬を全て積み込んで、荷馬車を出してくれたと言う事だ。

十分とは言えんが、それでも助かる。



さらに時間が経ち日も暮れ深夜、グラシャ=ラボラスの隠身かくりみを施し、町を抜け出して罠に面する南側に足を向ける。

これからする事は、あまり人に見られたくは無い。

その為にも、この時間まで待つことに成ったが、幸いにもゴブリン共の本格的な襲撃は未だの様だ。


「罠の設置は一通り終わって居る様だな」

町の南に面する荒野にポツンポツンと幾つかの樽が置かれている。

更に、その樽に囲まれる様にうず高く積み上げられたゴブリン共のむくろ

そして、これ見よがしに十字架に貼り付けにされた、幼い女王クイーン


我ながら、何とも残酷な光景に見えなくもない……。

「許せ、お前さんには恨みは無いが、人々が生きて行く上で、成さねば成らん非道も在る。次は良き来世を」

そう、幼き女王のむくろに手を合わせる。



深夜、此処ここに来たのは何も、ゴブリンのむくろを弔う為では無い。

銃と弾薬が行き渡り、火計の罠もある。

だが、やはりこれだけでは心許無い。


いかにゴブリン共が貧弱とは言え、銃を持ったヤツ等が町に雪崩れ込んで来たとしたら、被害者が出んとは限らん。

攻撃だけではなく、町を守るすべが必要だ。


そして、町の南端から百メートルほど離れた所に大きな魔法陣を一つ描く。

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