第83話 オーガの武術

ともかく、悠長にしてられん。

目の前のオーガとやらも、さっきジムが仕留めたのと同様に、町を破壊して回っている。

幸いこの辺りに逃げ遅れた者は見当たらんが、サッサと始末せんと、被害が大きく成るばかりだ。


「成らば」

軍刀の鯉口こいくちを切り、右手に結んだ刀印で描いた電撃の魔法陣を、その刀身に押し当てる。

まあ、いつものヤツだ。

初手は、この手でヤツの強さを測ってみるか。


「では、参る!」

先手必勝。

屋根の上から、巨体なヤツの背後、その首筋目掛け飛び掛かる。


全身全霊を込めて、振り抜いた軍刀を、振り下ろす。

バチバチ!と刀身にまとわせた紫電が走る。


ザク!

皮膚を切り裂く感触。

そのまま、軍刀の刃を立て、首筋から背中にかけて切り裂く。

バチバチバチ!

その切り裂いた傷口から枝葉が広がる様に、リヒテンベルク図形が刻み込まれる。


だが……固い!


グオォォーーー!

切り裂かれた背中の痛みでか、オーガが絶叫を上げる。


軍刀をそのまま振り切って、オーガの背後に降り立つ。

そのオーガの背中は割れ、鮮血が飛び散るが、しかし、浅い。

皮膚は切り裂けたが、背骨を切り裂くには至ってらん。


ウオォォーー!

オーガが咆哮を上げ、背後のワシ目掛け拳を振り下ろす。

紙一重でかわすが、なかなかどうして、その巨体に見合わず、動きが速い。


更に、ヤツの連撃は続く。

その巨大な拳をかわしつつ、その手首を軍刀で切り裂くが、皮一枚切り裂くのが限界だな。

強靭な筋肉と骨を断ち切るには至らん。

そもそも、相手が巨大過ぎる。

ヤツをたおすには、小さく短いこの軍刀では、いささか役者不足か。


さて、如何どうしたモノか……ヤツは、浅手とは言え、背中に傷を負わせたワシに執着しておる様だ。

その攻撃は凄まじいく、怒涛の拳の連撃。

勿論、かわせん程では無い。

そのヤツの執着を利用して、町の外まで誘導して、バアルの槍でトドメを刺すか……。


む、ヤツめ、足払いの様な体勢から蹴りなど繰り出して来おった!

咄嗟に、飛び上がりかわす。


だが、読まれておった!

宙に浮いたワシ目掛け、ヤツの巨大な拳が迫りくる。


猫特有のしなやかな体をひねってその拳を紙一重でかわし、その振り抜かれたヤツの腕を蹴って軌道を変え、着地する。


「フッ、驚いたものだな。ジムは知性も感情も無く、ただ本能のみのバケモノと称したが。こ奴の動き、熟達した武術家のソレだ」

と成れば、ただ大技でほふるだけと言うのも、興が無い。


この近隣に住む住民には悪いが、どうせ、復興費用はワシが持つのだ、ワシのやりたい様にやらせて貰うとしよう。


ズドーン!

「フッ、ジムめ、もう次のも始末したか」

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