第28話 この世界

この日、皆と語らい、謎だった事が色々と分かって来た。

単刀直入に言えば、今ワシが居るこの世界は、前世の世界とは似て非なる世界だと言う事だ。

並行世界や異世界と言う言葉を教わったのは、孫娘からだったろうか。


この世界にも産業革命は在ったと云う。

だが、それは、石炭や石油を使ったものでは無く、魔力結晶を燃料とした蒸気機関が発明され、始まったと言う事だ。

この世界にも当然、石炭や石油は有るが、それよりも魔力結晶を使った魔道具の方が一般的らしい。


ランタンもまたそう言う生活道具の一つ。

通常は、砂粒程の赤の魔力結晶を芯にし、無色の魔力結晶を燃料とする事で、赤の魔力結晶を光らせるのが、この世界で一般的なランタンの仕組みらしい。


一見、前世の世界よりも便利に思えるこれらの魔道具だが、欠点がある。

それは、魔力結晶の枯渇だ。

ジムが言う様に、この世界の生きとし生けるものは魔力結晶を持つ。

だが、余程強力な魔物でも無い限り、その魔力結晶は非常に小さい。

生きている生物から採取するより、太古の生物の亡骸なきがらが堆積した鉱山から採取する方が効率的だと、産業革命以後、散々掘り尽くしたと言う話だ。

まだ、完全に採れなく成ったと言う分けでは無いが、いずれは枯渇するだろう。


そこで、新たな燃料として注目されることに成ったのが、石炭や石油と言う事らしい。

まあ、歴史的な必然だな。

今は未だ、知られてい無くとも、いずれ普及するだろうと見込んで、トマスは石油ランタンを扱う事に決めたと云う。

中々どうして、商人としては才能があるな、この男。


技術や文化が違えば、自ずと歴史もまた微妙に異なってくる。

この地はアメリゴ大陸だと云う。

そして、国の名前はアメリゴ合衆国と。

一応、何度もアメリカでは無いのかと、ジムとトマスに聞き返したが、揃ってアメリゴと訂正された。


そして、このアメリゴ合衆国でもまた、南北戦争が有ったと云う。

ワシの知る世界同様、奴隷制度廃止を求めての闘いである事は同じだ。


その戦いは1861年に戦が始まり、1865年中頃に終戦を迎えたと記憶しておる。

だが、このアメリゴ合衆国では、戦が長引き1873年まで続いていたと云う。

そしてその戦いに、二年前に終戦するその時まで、ジムは参加していたらしい。


つまり、今は1875年、明治八年だと言う事だ。

ワシが前世で死んだのが大正十五年、それよりも半世紀前と言う事に成る。

もっとも、異世界である以上、過去も未来も無いのだがな。


だが、どうりで、ジムが自動拳銃を知らん筈だ。

何しろこの時代、未だ発明されてはおらんのだからな。

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