第7話 階層守護者とその存在
私よりも背の高い可憐な女性が2人。
独りは腰から漆黒の蝙蝠のような翼を生やし、その豊満な胸はいかにもサキュバスと呼ぶにふさわしいほどに婀娜やかな風采で私の心を鷲掴む。そして、もう1人は端正な顔立ちに立派な二本の角頭から生やし、尾てい骨辺りから伸びる人外そのものの象徴である蜥蜴のような、しかしそれよりも遥かに強固で威風堂々たる存在だった。
2人は私を見るなり即座に膝をついて頭を垂れた。
「お会いできて光栄の極みでございます。主様!」
「吾らを生み出していただき、感謝の限りで在ります!」
その語気の強さから、2人の意志は重々に伝わってきた。
2人とも私よりも年上で設定しているし、この世界の初心者の私より、知識は保有しているから、そんな2人から敬語を並べられると違和感しかない。どうにかしてそれを無くしたいんだけれど、これはどうにも難しい課題らしい。云わば、私は2人を生み出した神のような存在なうえに、魔王という立場にある。そんな私相手に、ため口なんて聞こうものなら、即腹を切る程の覚悟で、私を敬っているのだ。到底なれ親しく話せるものではない。
「初めまして、私はマリといいます。えっとこれから一緒にこのダンジョンの防衛に協力してもらいます。よろしくお願いします」
年上の人に指示するのって難しい。
私は社会人としての経験はたったの2年だし、仕事も上手くできずに常に下っ端のOLだったから、上の立場なんて経験がない。だから、こんな風に何かの上にたつなんて緊張するし、何を指示すればいいか全然わからない。
取り敢えず、ずっと跪いてもらうのも忍びないので、私は余っている椅子に座るように勧めると、渋りながらも座ってくれた。
「これで、一応直属の配下を作りましたけれど、この次は何をすればいいんですか?」
質問に、エルロデアは答える。
「では次に階層守護者を生み出してください。流石に直属配下2人だけではこのダンジョンの防衛にはあまりにも弱すぎますので、なるだけ仲間は多い方がいいと思います」
なるほど確かに多い方が頼もしいし、何より淋しくないよね。
この世界に来てから、まだ人との関わりなんてここにいるコーネリアとエルロデアくらいしかいなかったし、今まさに2人を生み出したけれど、それでも4人だ。この100階層もあるダンジョンでたった四人しかいないのはあまりにも淋し過ぎる気がする。だから、もっと仲間を増やせればいいのは確かだった。
「その階層守護者って云うのはどのくらいいればいいんですか?」
「このダンジョンでは8人いれば問題ないと思います」
八人か……。
多いなぁ……。
1人1人の設定を決めていくのは結構難しいうえに時間がかかる。
さっき二人を設定するのにも大凡1時間はかかったと思う。それが8人ともなれば半日はキャラクターメイキングに使う事になる。それは相当にキツイ。
だから、守護者の設定はこまめにやっていくことにした。
ひとまずは身の回りにいてほいいお手伝いが欲しかったから、守護者1人と、使用人1人を生み出した。
少し広いと感じていたログハウスもやや手狭になってきた気がする。
「すこし場所を変えましょうか。主様、新しく広めの建物を造ってください」
私はこの階層にログハウスとは離れたところに大きめの城を増設した。
エルロデアの魔法? で、私たちは労力を一切使わずに新設した城の中に移った。
非常に綺麗な城内をすすみ、13席が設けられた、俗にいう会議室に入ると、全員が席に着いた。まるで円卓会議でも始まるかのような風景だけれど、空席が幾つもある。あまり様にはならないかな。
「さっきの話ですけれど、階層守護者は具体的にどの階層に配置することになるんですか? まだ全然このダンジョンを把握していないので、併せて説明してもらえればいいんですけれど」
エルロデアは先ほど管理ボードを生み出したように、空中でその指をはじくと、大きな半透明な画面が空中に現れた。それを全員が目に入る様な位置に移動させるとその画面にこのダンジョンの見取り図を表示させた。
「おもに、このダンジョンでは守護階層領域と云うものが存在しておりまして、各守護階層守護者がその領域を管理するようになっております。そして、守護者が座するのは第12階層、第20階層、第28階層、第36階層、第42階層、第50階層、第64階層、第76階層、第80階層、第90階層の計10層になります。守護者が主様の元へ直ぐに集まれるように、階層同士をつなぐ転移装置を後ほど設定した方がいいでしょう」
「では先ほど仲間にしたものを早速その階層守護者と云う者に割り振りをいたしましょう魔王様」
コーネリアの提案の元、私は先ほど仲間にした者をどこの階層に置くかを割り当てた。
第12階層守護者:レファエナ・リア・グリステラ(
第80階層守護者:ハルメナ(
第90階層守護者:アルトリアス(
メイド長:カテラ(
直属配下は階層的にも深階層に置くのが良いと思ったけれど、そうでない者は上層から配置することにした。
メイドはまだ何人か作る事にするけれど、取り敢えず一番初めに造った彼女がメイド長としておくことにしよう。
自分で配下を造ってはいるものの、実際こうして、卓を一緒に囲んで、普通に会話をできている光景に、私は少しばかり違和感を覚える。だって、先ほど、私がボードの中で決めた存在がこうして眼前に生身の存在として動いているのが不思議で仕方ない。現実味がないと云うかなんというか。
円卓を囲む私の配下は人間じゃない者たちで、ダンジョン管理の中で選択できる種族に人間が無かったから仕方ないけれど、極力人の姿をもした者を選んでみたけれど、ところどころ人間離れしたものが顔を覗かせているから落ち着かない。
でも、みんな美人だから非常に心地がいい光景でもあった。
「こんな感じで大丈夫ですかね? レファエナは最初の階層守護者になってもらうけれど、問題ないかな?」
私の隣にはエルロデアとコーネリアが座り、コーネリアの隣から上層階層守護順に座るようになっている。そのため、コーネリアの隣には第12階層守護者で
そんな彼女は白銀のミディアムヘアに少しばかり凛とした双眸と慎ましい口元。白銀の髪との調和がとれた白皙の肌。そんな白い世界に色を付けるアクアマリンブルーの瞳。そしてそれらを飾る漆黒のシスターファッション。体のラインを明瞭にする修道服は彼女の美しいくびれを露わにし、腰のあたりから生まれるスリットからはきめ細やかな肌とエロティシズムを感じさせるガーターが見え、漆黒のハイニーソへと繋がる。
私は唾を飲み込む。
……非常によろしい!
この世界に来てからというもの、私の感覚が狂い始めているのは明白だった。
元凶は確実に例の神様だ。あの人の餞別を受けてからにちがいない。
眼前のシスターをみて胸の奥が締め付けられる感覚を覚えるなんて、ノーマルだった私にはありえない事なのに、今では違うのだ。
これは非常に忌々しき事態だ。
「主様の決定に意見などありません。戦闘においてはそれほどお役に立てるか分かりませんが、尽力させていただきます」
彼女の設定上、主に魔法による戦闘を得意としているけれど、肉体的戦闘に至っては非常にもろいのだ。けれど、それを補えるほど、彼女の魔法戦闘力と云うのか、それは非常に高いと思うので、彼女はきっと最初の砦としてはかなり強力だと思われる。
彼女の設定はそんな感じにしておいたけれど、この世界の力が不明瞭な今ではその考えも宛にはならないかもしれない。
「そう云えば、もし私の配下である彼女たちが倒されたら、彼女たちはいったいどうなるの?」
そんな私の質問にエルロデアは応える。
「無論、消滅いたします。設定は消え、存在が消えてなくなります。改めて設定しても、同じ存在が創造されることは決してあり得ません」
つまり、彼女が死んでしまったら、もう二度と彼女とは会えない。
このダンジョンって云うものはまるでゲームみたいなものなのに、そう云う所は現実的なのか。
なら、私は彼女たちが死なないように何か策を講じなければいけないので、今からそれを決めて行こう。
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