第4章

第1話 行商人 ウェストーラ三姉妹

 魔王ヒーセントが去って、大体一週間が過ぎた。

 最近はダンジョン内に生まれた昼と夜のお陰か、時間の感覚もわかってきた。それに加え時計版による時間の管理ができるようになり、一層の時間管理が可能となった。

 そんなおかげで、何日経ったかが把握できるようになった中、その一週間で、私はヒーセントから頂いた助言通り、今できるうちの2つのことを行った。

 1つは、ギルドに作業員の募集を頼むこと。

 これは現在、再び外界へ活動に出ているアカギリとカレイドに連絡を取り、冒険者ギルドに依頼をしてもらった。

 メッセージで伝えるだけで済んでしまうのであっという間だった。

 別段、問題はなく、ギルドの掲示板に作業員募集の張り紙が掲示されているようだった。ただ、その掲示板をみて実際にこのダンジョンへ来る場合はどのように来るのだろうか、私にはわからない。ギルド側がどういった風に動いているのか、私にはまだ判然としないものだから全く見当がつかなかった。

 依頼を受注した者たちが一度ギルドに集まってから、依頼主であるアカギリたちと一緒にここへ来るのだろうか? 

 たぶん、その可能性が高い。

 だとしたら、問題はないかな。

 もしそうじゃなく、受注した者が自由にこちらへ来るようなら、ダンジョンの入り口にだれか門番を置く必要がある。なにせこのダンジョンに登録されていなければ侵入者扱いになり、警報がなる。しかも、ここへの転移門までのルートを知らなければ、ただダンジョンをめぐるだけになってしまう。作業員に集うものたちだ、それほど強くはないだろうし、もし私のダンジョンにもぐってしまたら、魔物に殺される危険性がある。そうなれば私のダンジョンの評判が地に落ちてしまう。――まあ、まだそれほど高くはなっていないけれど――そんなことになってしまったら、今後の夢に響いてくる。そうならないようにも、どのようにして依頼が成されるかは確りと調べてもらう必要がある。これはまた後日、アカギリたちに頼むとしよう。

 そしてもう一つは、商業ギルドへの登録のために必要な商人の生成。

 これはもう慣れた作業の一つ。

 管理ボードによって配下を生成した。

 商人に向いていそうな種族は何かと、配下と一緒に考えた結果、山羊人カプラトとなった。山羊人は世界を渡り歩く種族として有名らしく、商人として活躍する山羊人も多くいるとのこと。

 商人は複数創る予定だったため種族はどうしようかなと考えたけれど、山羊人カプラトでそろえることにした。


【ウェストーラ三姉妹】


 長女――アメス・ウェストーラ

 次女――ベベロア・ウェストーラ

 三女――ネウロ・ウェストーラ


 麗らかな容姿の三姉妹は見た目こそ非常に酷似しているが、側頭部から生える立派な角がそれぞれ違うため、それで見分けるしかない。

 彼女たちは私よりも背は高く、スタイルもいい。

 私はきっと、配下の設定をするときに、心のどこかで私の望む何かを無意識のうちに入れてしまうのかもしれない。

 これが私の理想である。そう彼女たち配下を見るたびに思う。

 設定としては、彼女たちは商人としての能力が非常に高いようになっているけれど、行商をしていくうえで、何か問題に巻き込まれた際にある程度、その身を護る術くらいはあるようにしてある。これもまた能力は創造者の魔力に依存する形となる。私自身の魔力や力がこの世界ではどれほどのものなのかは定かではないけれど、他の配下を見るに、その恩恵は大きいらしい。だから、彼女らもまた少しくらいは強いのだろうか?

 ただ、そんな彼女らにはもう一人、護衛の者たちをつけるようにしてある。

 これは魔王ヒーセント様からの助言の一つ。

 行商を行う際に常に護衛をつけている行商人とそうでない行商人とで差別化を図り、優位性を獲得するため。

 護衛は一人ずつ付けることにしたため、同日に生成した配下の数は6人となった。

 なかなかの疲労感があった気がする。

 たしかその日はそのあとずっと自室の寝台で魔力の回復にいそしんでいたはず。

 もちろん。私自身で自然治癒させるよりも効率的なものを配下に推奨されたので、例の如く、私は配下の一人に手伝ってもらって魔力の回復を行った。

 そういった苦労も相まって作り上げたのが、行商三姉妹を護衛する近衛兵。


 クロウト・ユンゲル:馬人カヴァロ

 ベネク・グレアース:妖人ニンファ

 ピュレオア・モルフォート:妖狐ヴォルペナ


 護衛を任せるだけに、彼女らの実力は主に戦闘メインで設定して置いた。


 クロウト・ユンゲル――馬のとがった耳を有し、ポニーテールを尾骶骨から生やす見た目こそ人の形をしている亜人。腰のあたりまで流れる美麗な金髪は見るものの足を止めるほど。その身は騎士のような鎧に飾られ、一国の精鋭騎士のような見た目である。戦闘時は左手にその身隠せるほどの太盾を持ち、右手には青白い剣身の長剣が握られる。防御と攻撃をバランスよく使いこなすのが非常に得意な配下である。

 現状、こういったバランスのいい戦闘能力を持っているのはクロウトだけだ。


 ベネク・グレアース――人の身で亜人の血が混在した者で、見た目は人間と何も変わらない。妖人ニンファである者は身体的能力が人間の時よりも飛躍的に向上し、およそ5倍以上の力を有する。そして寿命は人間と変わらないものの、その見た目は成人を迎えてからは一切変化しないまま年を重ねるようになる。

 半不老状態になるのが妖人の特徴だった。

 ベネクは軍人のような様相をしている。漆黒の軍服に身を包み、慎ましくも凛とした相好に黒によく映える白銀の長髪を後頭部あたりで結び、ひとまとめにして軍帽にその結び目を隠している。手に嵌める純白の手袋はその身に汚いものを触れさせないようにするためのもので、酷く潔癖な性格を持っている。

 戦闘時は腰に携える一本の刀で戦う。戦闘スタイルは基本的にアカギリと同じだ。

 男装の美女とはまさに彼女のこと。


 ピュレオア・モルフォート――魔力が非常に高く、魔法に似た妖術というものを使い戦闘する。妖鬼フェアリーオーガと戦闘スタイルは似ているが、彼女もまた手に持つ武器によって敵を討つスタイルだ。狐のお面を被り、体のラインが浮き彫りになる深紅の服に身を包み、服と一体となっているスカートは非常に短く、私だったら絶対はけないようなマイクロミニの丈から健康的な美脚を服よりさらに暗い色合いのタイツに覆わせ、その脚線美を強調させていた。

 彼女の戦闘スタイルは身長ほどある二又槍によって行うもので、彼女の戦闘の特徴は相手の攻撃を綺麗に何度も受け流しながら、獲物が最も効果を発揮する距離まで取ったところで、一気に攻撃を仕掛けるというものだ。

 彼女の回避力は随一。


 彼女たちを生成したのち、少しの休息をとってから、行商人であるウェストーラ三姉妹と護衛の三人を玉座の間に呼んで指示を出した。


「アメス、ベベロア、ネウロ。貴方たちには外界へ行ってもらい、行商を行ってもらいたいわ。荷はすべてこのダンジョンで採れた素材。それを外界で売り、このダンジョンの名を世間に広めてほしいの。また、貴方たちは様々なものを取引して行商の腕を高め、ウェストーラ三姉妹という名を世間が認めるようになるまでになってほしいわ」


「はい、魔王様。私たちが行商をするにあたって必要になる荷馬車などはどこで調達をすればよろしいでしょうか?」


 長女のアメスがそっと質問してきた。


「それならダンジョンの入り口に馬と荷馬車を用意してあるわ」


「流石魔王様。感服いたします」


 次女のベベロアが言う。


「出立は急ぎ行ったほうがよろしいでしょうか?」


 三女のネウロが首を傾けながら聞いてきた。


「そうね。早いほうがいいわね。行商をするうえで、貴方たちには必要になってくるものを先に渡しておくわね」


 玉座から立つと、三人の元までいき、アイテムポーチから地図を三つ取り出して彼女たちに渡した。


「これはこの世界の地図になるわ。とはいってもすべてではないけれどね。たしか、ここ一帯の大まかな地図でしかないはずよ。もっと確りした物はのちのちあなたたち自身で手に入れてね」


「かしこまりました。荷馬車などの用意はされているとおっしゃっておりましたが、荷のほうはどうなっているでしょうか?」


「そこも抜かりないわ。既に荷台いっぱいに素材を詰めていおいたから安心して

 」


「かしこまりました」


「それと、まず貴方たちに行ってもらいたいのは、近郊で一番大きな街ウィルティナに行って、商業者ギルドに登録してもらうことから始めてほしいわ。無事登録が済んだら、貴方たちはそれぞれ別の街へ向かい行商を進めていってほしいの」


「かしこまりました。より多くに名を知らせるためですね。荷のほうは売れ切り次第、再びこの地に戻ればよろしいでしょうか? それとも、為替かわせで行商を続けていったほうがよろしいでしょうか?」


「それも問題はないわ。貴方たちにも使える異空間魔法、アイテムポーチでどこにいても私の力で、アイテムポーチ内を共有することが可能なの。だから、常にこのダンジョンで採れた素材を共有したアイテムポーチに格納しておくから、商品のそこが尽きることなく、常にこのダンジョンで採れた素材を商品として、他国へ売ることができるわ」


「「「おお!」」」


 三姉妹が同時に感嘆する。


「もちろん、商業者ギルドに加入すればギルドからの依頼などもあると思うから、そちらも卒なく熟して、商人としての箔をつけて行ってね」


「「「かしこまりました」」」


 三人が同時に頭を下げるのを見てから、その後ろに並んでいた護衛の子たちにも声をかけた。


「貴方たちには彼女たちの護衛を任せます。外界には魔物は存在しないけれど、小国同士の小競り合いに巻き込まれた場合や、盗賊なんかもいるらしいから、そういった輩から彼女たちを守ってほしいわ。それと、そんな中で一番気を付けてほしいのが、聖王騎士団という連中なんだけれど。なかなかどうして、会うたびに衝突するような連中だから、もしあったらそれなりの対応をしてほしいわ。極力刺激は与えない方向でいてほしいけれど、どうしようもないときは、証拠が残らないように処理してくれると助かる」


「聖王騎士団……敵ということで間違いありませんか?」


 クロウトが腰の剣に手を掛けて訊く。


「ええ」


「誰が相手でも、速やかに処理するのが最適でしょう」


 姿勢を正し、まさに軍人たる姿でベネクがいう。


「うちにとってはそんなこと、些末な問題ですね。主の命は彼女を護る。ただそれだけですんで」


 狐の面を少しずらして隣のベネクを見つめるピュレオア。

 三姉妹は本当に見分けがつないなかで、後列に並ぶ護衛係が非常に個性が目立ってしまう。

 そうして、彼女ら行商人とその護衛、行商係とでも呼称するとしよう。

 行商係の彼女らへの説明も一通り済み、連絡手段やダンジョン内での自由な移動手段について軽く説明したのち、彼女たちをさっそく外界へ旅立たせた。

 善は急げだ。



 魔王ヒーセント様が来訪してきて翌日におこなったのがその行商係の手配だった。

 そして、三日目には情報収集に出ているディアータからメッセージが届いた。

 どうやらオーレリア山脈を越えた先、光側の国々が構える地で、貧困に苦しんでいる村人を救済したという連絡が届いたのだ。

 どうやら、そこの領主がなかなかの悪政を働いているようで、それに苦しめられていた村人を救い、このダンジョンへ移住させるという話になったらしい。

 それはこちらとしてもうれしい話で、人手が足りない状況下で、人員補充の知らせだ。僥倖僥倖! って思っていた次の日、連絡をくれたディアータから不穏な気配が伝わってきた。心の奥がズキズキするような感覚に陥り、私は慌てて彼女へメッセージを飛ばしたけれど、繋がっているはずなのに、私の言葉がまるで届いていないようだった。

 私が何度も何度も彼女に呼びかけていると、漸く彼女からの返事が届いた。

 どうやら何かを深く思い詰めている様子で、いったい何があったのか聞いてみると、それは何とも吃驚するほどに大した内容じゃなかったのだ。

 なんでも鎧に傷が入ってしまったということらしい。まさか、そんなことで落ち込んでしまうなんて、彼女は意外と神経質だったのかなと思ってしまう。でもまあ、彼女が無事でほっとした。だって、初めて感じた歪な感覚だったから、もしかしてやられてしまったんじゃないかって本気で焦った。

 でも、無事だったから本当に良かった。

 ……いったい何だったのだろう。


 冒険者ギルドへの依頼と、行商係の配属。

 魔王ヒーセント様の助言の二つが完了した。

 のこり一つ、他の魔王が容易にこちらに赴くことができる方法の考案。

 けれどこれがなかなかどうしてうまく進まない。

 そうこうしているうちにいつの間にか、あれから一週間が過ぎてしまった。

 街づくりは順調に進み、今ではメイン通りと呼ばれる、城まで続く真っすぐな道が整備され、綺麗な石畳が敷かれていた。

 通り沿いに立ち並ぶ建物も次第に完成を間近に控えている状況だった。

 私は自室の窓から夜を迎えた窓外の景色に視線を送り、次第に出来上がっていく街の姿を見て、心が高揚感に満たされていく。

 そんな時、扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 入ってきたのは死兆の影ドッペルゲンガーのレファエナだった。


「こんな時間に、なにか問題でも?」


 岩窟人ドワーフに作ってもらった時計版を見ると、夜の10時を過ぎるところだった。


「いえ。ただ、マリ様とお話がしたく思いまして……。ご迷惑だったでしょうか?」


「いえ、問題ないわ。さ、入って」


 私の言葉に白皙な相好を崩すと、彼女は静かに部屋へと入り、背の高い扉がゆっくりと閉ざされていく。

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