第5話 妖精と精霊

 擬態液スライムであるシエルの配下というのは少し想像するのが難しい。

 いったいどんなものを配下にすればいいのだろうか……?

 とりあえず、彼女自身に要望を訊いてみる。


「私は私と同じような子たちが沢山ほしいです!」


「シエルと同じ? というと、擬態液スライム?」


「うーん。全く同じというわけじゃないんですけど、似た存在の子がいいです。私みたいな擬態液スライム種は他にも多くいますから、他の子とも一緒に働きたいです!」


 彼女の云う様に擬態液スライム種は様々なものがあり、彼女のように知性ある種族は異形なる存在ゲシュペンストとして括られるが、魔物レナトゥスとして括られる種類もある。

 そんな中で、改めて彼女の配下として創造するとなると、異形なる存在に分類されるもので創造したほうがいいだろう。


「分かったわ。少し待ってね」


 私は種族一覧を確認し、擬態液スライムを見ていく。その中で、さらに分類化された種類にフォーカスを当て、決めていく。

 シエルは擬態液スライムであり、擬態特性を有する種類。他にも、猛毒を持つ猛毒液に、ケガなどを治せる体液をもつ快癒液といった風に、様々なものが存在している。しかし、そのどれも、呼び方はすべてとなるらしい。文字で起こさない限り訳が分からなくなる。とはいっても、それぞれ持つ特性によって、色が若干違うらしいので、色で見分けることも可能だという。

 そんな中、一覧に擬態液スライムと似た存在の種族が存在していた。

 液精霊リクイットという種族。

 これはとは違い、何かに擬態したり、猛毒を持っていたりと、特殊な特性を持っているわけはない。括りとしてはその名の通り、精霊の仲間で、液体の体を持つ精霊なのだ。そのため、似た存在であると相性も良く、水系統の種族とも良好な関係を築けるようだ。

 私の配下の中だと、流水の天使リオネイアであるメフィニアとも相性がよさそう。

 また、液精霊には大きな特性がある。

 それはスライムを統括管理することができると言うものだ。ダンジョン内にいるスライムを指揮することも可能な上に、魔法によって新たなスライムを生成することもできる。とはいっても、知恵ある魔物を生むことはできない。あくまでダンジョンで生まれるような存在のものだけとなる。


 一先ずはこの液精霊リクイットをシエルの下に就かせよう。


 となれば設定だ。


 液精霊一人だけでも十分に働いてくれそうだ。


 ちなみに、液精霊は非戦闘種族であるため、いざ戦いとなれば即座に姿を晦ますらしい。だから、ダンジョンの防衛戦力としては数えない。

 けれど、液精霊たちが生み出すスライムは液精霊よりは好戦的のため、代わりに十分な防衛戦力を生み出してくれることになる。

 それに、液精霊の生み出すスライムによってダンジョン内の管理は今まで以上に円滑に進むはず。

 擬態液スライムでありながらも、液精霊を下に就けるというのは本来、例を見ないものらしいけど、私の配下ではそういった常識は関係ない。


 擬態液同様に、液精霊にも性別はなく、どちらにでもなり得る存在のため、見た目は私の一存で女の子に寄せてみる。


 ――とりあえず、こんなところかな。


 設定を終えた私はシエルの配下を創造した。

 先ほどと同様に光の柱が生まれ、新しい配下が姿を現した。


 その全てを半透明の縹色の液体に身を形成した少女は、ぺたりと立つと、シエルの方を見てにこりと笑い挨拶をした。


「初めまして主人様。ロゼと言います。これから一緒によろしくお願いします!」


 シエルより少し背丈は小さく、幼子の影を残す少女ロゼ。

 液体の体というのはシエルで見慣れているので特段違和感はない。とはいっても、シエルは擬態液スライムという性質上、その姿を本物に寄せることができるため、その見た目は人間そのもの。肌の色合いや髪といったところまで似せることができる。それに比べると、液精霊のロゼは人型に成形されているけれど、それはあくまで液体がその形になっているというだけの存在であり、肌も透明で液体そのもので、髪も液体がそういう形をしているというだけなのだ。だから、純粋にシエルと比べると全然違うけれど、シエルもお風呂に入る際にはロゼのように本来の姿に戻ってしまうから似てはいる。


「この子が私の……」


 シエルは椅子から立ち上がると後方で身を正すロゼに歩み寄り手を差し出す。


「これからよろしくね!」


「はい。ご主人様。これからよろしくお願いします!」


 ニコニコとしながら、シエルは自分の席へ戻る。

 無邪気に上機嫌を露わす彼女の姿にモルトレは羨ましそうな声を漏らす。


「いいなー。僕にもほしいけど、僕は悪魔使いで配下の悪魔は自分でつくることができるから、わざわざマリ様に作っていただく必要が無いんだよな……」


「そんなことはないわ。悪魔以外でダンジョン管理を任せられる存在がいるというのは、貴方の負担がかなり軽減されるんじゃないかしら? 既に悪魔を使って階層の管理をしているけれど、悪魔召喚には魔力を使うでしょ? それが不要になるというのは、貴方にとっても、私にとってもいいことなのよ」


 モルトレは小首を傾げる。


「マリ様にとっていいこと?」


「モルトレが普段から魔力を使って、階層管理をしていたら、もしもの時、襲撃者がきても万全の状態で戦えないじゃない? そうなってしまうと、ダンジョンの防衛にも支障が出てしまうし、貴方にも大きな負担をかけてしまうことになるわ。だから、基本的には、自ら配下が創造できるかどうかは関係なく、私の創造下の配下を皆に就けるつもりよ」


 可愛い目が輝きを帯びていくのがわかる。


「そ、それなら是非、マリ様にすっげー奴、造ってもらおうかな!」


「勿論! 任せて!」


 モルトレの満面の笑みを頂きました。


「じゃあ、次はメフィニアね」


 メフィニア・イルヴァレウ。彼女の管理する階層は森林地帯と樹海地帯という木々に囲まれた世界だ。

 そして、彼女が鎮座するのはそんな樹海にある湖。

 次第に深くなる碧い森。そんな世界を管理するものといえばやはり彼女たちだろう。

 森妖精エルフ樹妖精ドライアド

 メフィニアとは全然似ても似つかない種族だけれど、種族間の相性は悪くないはず。

 森妖精というよりは樹木そのものを管理できる樹妖精の方が適任だろうか。

 だとしたら、メアリーの後輩にあたるのね。

 私はちらりと彼女を見やると、彼女も私をじっと見ていた。

 目が合うことに驚いたのは、恥ずかしながら私だけ。

 彼女は何とも平常な面持ちで私をみつめる。

 彼女の後輩として創造する以上、彼女を慕うという基盤は入れておきたい。同じ種族同士のつながりというのは極力作っておきたいと思う。

 たとえ仕える者が違うとしても、数少ない同種というのは結構大事な存在じゃないかな。

 とはいえ、メフィニアの意見も聞かなければいけないけれど、彼女を見やると彼女は静かに首を横に振り静かに云う。


「私は特に希望はございません。マリ様に創造していただけるだけで十分ですから」


 落ち着き払った彼女の姿勢。本当に心からそう思っているのが伝わる。


「なら、遠慮なく創造させてもらうわ」


 管理ボードにて新たに配下の創造をしていく。

 種族は樹妖精ドライアド。姉妹という設定をつけた。

 階層にある大樹や大地を自由自在に行き来して階層管理を行ってもらう。森に異変があればすぐにわかるほどに彼女らの管理は行き届く。


 メフィニアの後ろで光の柱が生まれて、二つの姿が現れる。


 足元から茨を体に絡ませる色白の女性が二人。

 繊細な刺繍が敷き詰められるエメラルドグリーンのドレスを身に纏う二人は、その綺麗で真っすぐな体とは裏腹に、癖のついた柔らかな髪を腰のあたりまで伸ばし、一人はその色をホリゾンブルーを基調として、癖のついた毛先がライラックへと変わっている。もう一人はライラックからホリゾンブルーへと変化している髪色をしていた。

 全体的に淡い色で統一されているものの、その身体に絡みつく茨は濃く、コントラストが明瞭となっていた。そんな茨には、それぞれの髪色と同じ色の薔薇が幾つも咲いている。


「初めまして。私は樹妖精のリアナ・ローズと申します。こちらは妹のライア・ローズと申します。この度は、私たち姉妹を創造していただき感謝いたします。これからはマリ様の配下として、メフィニア様の配下として、精一杯貢献させていただきますので何卒、よろしくお願いいたします」


 礼儀正しい挨拶を終えると、二人はメアリーの方へ体を向けると、何も言わずに深々と頭を下げた。そして、先に創造された他の配下たちと同様に従える階層守護者の後ろで身を正す。

 樹妖精同士は言葉を交わさなくても意思疎通ができるらしいので、もしかしたら何かしらの挨拶をしたのだろう。


「ふう……。これで三人分ね」


 三人分とはいえ、創造したのは8人。これまでの創造よりもかなりハイペースで多くを創造している。日々の魔法練習によって保有魔力量なども増えてきているので、昔のように魔力切れを起こすことは最近ないけれど、現段階で疲労感が無いかと問われれば嘘になるくらいには、多少感じている。

 とはいっても、まだまだいけるわ。

 この調子でどんどん創造していかないと、時間が掛かってしまうわ。

 別の任務で外界へ出ているオーリエから定期的連絡をもらっていて、そろそろ魔王テステニアとの謁見が叶うそうだった。

 だからこそ、それまでに残りの守護者の配下を創造しなければいけないのだ。


「さて、次は――」


「私デス。私ハ望むモノガありマス」


 私が云うよりも先にオフェスが静かに手をあげた。




















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