第9話 黒翼の抱擁と快楽の悦
……愛?
視界の遠くで、メイドのバーバラがちらりと映った。
ハルメナのこの深刻な面持ち。
私の聞き間違いだろうか?
「ごめん。もう一度言ってもらっていいかしら?」
「愛を、頂きたいのです!」
一言一句変わらぬ彼女の言葉。
どうやら聞き間違いではないようだ。
「愛って、何かしら?」
抽象的すぎるものは、正直欲しいと言われても対応に困る。
もっと具体的なものを要求してくれた方が嬉しいんだけど……。
「最近、マリ様はダンジョン街の計画で大変忙しくされておられます」
――たしかにそうね。
「その所為で、最近は私たち配下との触れ合いがめっきり減ったように思います」
「そうだったかしら?」
少しばかり誤魔化すように言って見せると、ハルメナはグイッと距離を縮めて言い放つ。
「そうです!」
「……はい」
彼女は再び距離を離す。
「ですが、これは私たち配下の我儘です。激務に追われるマリ様の負担になるのであればこの我儘も心の奥にしまわせていただきます。ですが、負担でないのであれば、是非、私たちにマリ様の寵愛を頂きたいのです!」
まっすぐ見つめられると、目をそらしたくなるけれどそうさせないほどに、彼女の瞳は私を確りと捕えていた。
「ハルメナがいう寵愛っていうのは、具体的になに?」
「私が求めるものは、ただ一つです」
しなやかな足取りで近づくハルメナ。
ばさりと大きく広げられる黒翼が、白百合の背景を消し去り、私を包み込む。
静かに顔を近づける彼女の瞳を見ていると、心の底から恍惚とした感覚に満たされていく。
――ああ、これはきっと
花のように甘い匂いに満たされていく中で、彼女の柔い唇が当たる。
そして、そっと私の腰に手を回し、抱擁を求めるように手を這わせてくる。
私はそんな彼女の望み通りに、彼女腰に手を回し返した。
淫魔である彼女の腰は私の物とは少し違う。
手を這わせれば、少しの盛り上がりがあり、そこから私にはない翼が伸びる。
滑らかな肌触り。
翼なのにすこしすべすべとした感触。
甘い香りと、絡みつく少し長い舌で、脳が溶かされていくなか、私はその感触を味わう。
すると、どうしたのか。
先ほどまで私の舌に絡んでいた彼女の舌がピタリと止まったではないか。
そのまま触り続けていると、今度は少しずつ彼女の息が乱れていく。
「んっ! ……んっ!! あっ!」
声が漏れる彼女。
ビクビクと腰が引けていくのを抑えながら、私はそのまま彼女の翼を触っていく。
彼女の反応を確かめつつ、舐めるように触っていく。
どれほどの間そうしていたかわからないくらいに、私は彼女を弄った。
いつしか私を覆っていた黒翼も次第に崩れ始め、視界に光が差し込む。
そして、絡めていた舌を離し、余韻に浸りながら彼女の顔を除く。
すると、頬を紅潮させ、恍惚とした濡れた瞳がそこにあった。
「……ま、まりさまっ。こ。こんなの……はじめて……です」
私は彼女の翼から手を離すと、彼女はその場に崩れるようにへたり込んでしまった。
肩で息をしながら、上目遣いこちらを見るハルメナに、胸を締め付けられる感覚に陥ってしまう。
何時も、私は彼女たちに遣られっぱなしだ。
身を任せ、それに溺れる私。
でも、なぜかそうはならなかった。
彼女が私にかけた催淫がそうさせたのか。
だからこそ、余裕を保ってられる今だからこそ、私は彼女へと続ける。
すこし身を低くして、へたり込む彼女に合わせる。
「これが、貴女の望む寵愛でいいかしら?」
そうして最後にもう一度、彼女の唇に口づけをすると、垂れ下がっていた黒翼がバサッと大きく広がった。
幸福を満たし切った表情を浮かべるハルメナに、私も笑顔がこぼれる。
「ひとまず、これで勘弁してもらえる? またの機会は必ず設けるわ。だから今日はこれでおしまい。いい?」
「……はい」
私よりも大人びた妖艶な彼女。
守護者統括として毅然とした彼女がこうして崩れ落ちている光景はなんとも不思議な光景だった。
しかも、そうさせたのがこの私だというのだから驚きだ。
何とも筆舌に尽くし難い感情に支配された私だったけど、それは一瞬にして吹き飛んでしまう。
なぜなら、ふと見上げた視界の先には、この光景をじっと見つめる他の階層守護者の姿があったからだ。
――これは、ちょっとまずいわね。
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