第6話 配下
平屋のログハウス内は非常に広々としていて、中には生活に必要そうな設備は一通りそろっていた。
玄関から入って直ぐのところに、テーブルが置かれ、私たちは向かい合うように腰を下ろした。
「それではダンジョン管理者となられた貴方様の役目を、私の方からお伝えさせていただきます。貴方様の役目は先ほどもお話しましたとおりこのダンジョンの管理です。この101階層を造ったようにこのダンジョンをより良いものにしてください。そして、このダンジョンに侵入する者への対処も行ってもらいます」
「侵入者への対処?」
「このダンジョンは今の段階で100階層ありました。その節目階にはそれぞれ侵入者を撃退するための門番がいるのですが、管理者がいなかったこのダンジョンはそう云った対処の術は持ち合わせていなかったのです」
「でも、いままでこのダンジョンを攻略された事は無いんですよね? それなら、別に門番がいなくてもいい気がするんですけれど……」
エルロデアは首を振った。
「おっしゃったように、このダンジョンは未だ攻略はされていませんでした。しかし、それはこのダンジョンが生まれたばかりのものだったからです」
「生まれたばかりって、いったいどういうことですか?」
「本来、ダンジョンと云うものはそう簡単には生まれたりしません。しかも、私のような補佐役が備わった最高クラスのダンジョンとなると確率的にも皆無でしょう」
「でも、生まれたんですよね?」
「世界に変革があるとき、今までなかったようなことが世界のあらゆるところで起きます。そして、今回もまた、その変革がこの世界にあった為、このダンジョンが生まれたのだと思います」
「変革? 何かあったんですか?」
「二つあります」
「二つ?」
「一つはこの世界に座する七人の魔王の一人が勇者によって殺されたのです。そのため、世界の力バランスが傾いたのです」
「え!? 魔王殺されたんですか?」
「【邪龍の王】と称された尤も力のある魔王が殺されました。流石に勇者一人によってではありません。勇者側も相当な力の者を引き連れていたのです」
邪龍の王って、名前からしてすごくヤバそうな人が殺されるなんて、勇者ってそんなに強いの?
てか、私も魔王の一人だから、いずれ戦う事になるよね? その時、絶対手も足も出ない気がするんだけれど。
「そして、もう一つは、この世界に新たなる魔王が降臨したことです」
ん?
それって……私?
「新たなる魔王の降臨によって、傾いた世界の力バランスが再び大きく揺れ動いたのです。その変革によって、世界各地、未だ例を見ない異常が多発しているのです」
私がこの世界に来たことによって、このダンジョンができたのなら、このダンジョンって、相当生まれたての存在って事?
いやでも、魔王が殺されたのも理由となると、そっちの方が先だろうし、このダンジョンも、その時で来た可能性が高い。
どちらにしても、最近できたことには違いないのか。
「ダンジョンが攻略されてしまうとどうなってしまうのですか?」
そんな私の質問に、エルロデアは顔色一つ変えずに答える。
「管理者の消滅です」
すごく不穏当な響きだ。
「管理者の消滅って、具体的にどうなるんですか? このダンジョンでいうと私が管理者らしいですけど、私からこのダンジョンの管理権限が消滅してしまうということですか?」
「そもそも何をもってダンジョン攻略となるかご存知ですか?」
質問に質問を返された。
「いえ」
「ダンジョン攻略と認定されるのは、管理者の死というわけではありません。管理者が侵入者に倒されたとしても別にその時点で攻略とはならないのです。ダンジョン攻略はダンジョンの最奥にある契約の石碑に触れることで達成されるのです。逆に云えば、契約の石碑に触れられてしまえば、管理者や、階層主が生きていようが敗北となります。そして、敗北となった時点で管理者とその配下の生命は消滅してしまいます。こちらでいう消滅というのは文字通りの意味で、存在が消滅、つまり死と云う事になります」
えっ!? 管理者になると超ヘビー級のリスク背負う事になるじゃん!
「あの、管理者を辞退することは可能なんですか? そんなリスク、私背負いたくないんですけれど」
「残念ながら、管理者は一度なってしまうと途中解任は不可能となります」
「そんな……」
ってことは、このダンジョンの石碑の防衛を強化しなければいけないと云う事になる。となると、有意義にダンジョンの外に出たりすることも出来ないと云う事だよね? まさかの私、異世界に転生して、こんな穴蔵で自宅警備員をする羽目になるの!?
ゲームクリエイターになって少し愉しいって思っていたけれど、この上げてから落とされる感覚は酷いものだ。
私が絶望している時、ログハウスの扉が、強くノックされた。
ドンッ! ドンッ!
扉の方に視線を向けると、直ぐに扉越しから声がする。
「魔王様! いらっしゃいますか?」
この声は確か――
扉が開き姿を見せたのは、褐色肌に身を包むダークエルフだった。
「コーネリア」
「魔王様! 御無事でしたか! 大変心配いたしました。行き成り姿が消えてしまったので」
「ごめんなさい。石碑に触ったらどっかに飛ばされてしまって」
必死に探してくれたのだろう。息を荒立てているコーネリアを私が座っている隣へと勧める。
私たち二人とエルロデアが対面する形となった。
「もう既に配下がおられるようで、大変すばらしい限りです」
「別に、コーネリアは配下じゃないですよ」
そんな私の言葉に、コーネリアは空かさず口を挟む。
「何をおっしゃいます! 私は新たなる魔王の配下であります! この身は魔王様の身元と共にあります」
魔王という肩書が、出会いと経緯を完全無視してしまうとは。
この世界でいう魔王と云うのは同じ側からの信仰は非常にあるみたい。
「……」
「さて、ダンジョンの管理者と云う者がこれでどう云った者なのかご理解いただけたと思いますので、ご自身の命を守るために配下を生み出してはどうでしょう?」
「配下を生み出す? つまり生き物を生み出すって事ですか?」
「はい」
即答だった。
どうやら、管理ボードにあった【キャラクター】という項目によって配下を生み出すことができるようだった。
キャラクター項目には詳細な選択肢があり、どういった種族の、どういった力を持った者かまで設定できた。すごいところは、肌の色や瞳の色、髪の色、そういった本当に細かいところまで決められるということだ。これはまさにゲームそのもの。MMORPGなどによく使われる機能そのものだった。生前、友人の家で友人がそういったゲームをやっていたのを横で見ていたからわかる。
このキャラクターメイキングはそういった細かい所まで設定できるものの、そのキャラクターの強さというのは設定項目にはなく、一律として〘管理者の強さに比例する〙とされていた。
つまり、私が弱ければ配下に生まれる人たちも弱いことになる。
それは流石にかわいそう。
でも、私は一応魔王だし、ある程度、コーネリアが賞賛を送るほどには強いはず。
もしあれが社交辞令的なやつだった場合は……ごめんなさい。その時は私が強くなっていくしかないかな。頑張ろう!
キャラクターメイキングはコーネリアのアドバイスと、エルロデアの説明を受けながらやり始めた。
「魔王様直属の配下をまずはお決めになられたほうがよろしいかと思います」
直属の配下かぁー。
どういったのがいいんだろう。
「直属ですので知恵の優れたものや、力あるものなどがいいかと思います」
まぁ、直属となると、コーネリアは入るとして、あと2人かな。
ステータスは高スペックがいいけど、やっぱり重要なのは顔だよね!
イケメン、美女で配下を揃えると圧巻な気がする。でも、その中の王となるものが私みたいな低スペック女だとがっかりだしなぁー。
でも、そもそも対人しなければそのがっかりも与えないから別に問題ないかな。
なら美形ぞろいで構成するとして、あとは種族か。
ボードを見るに結構種族があるみたいだけど、ファンタジー初心者の私からしてしまえば、種族の特徴も、名前を聴いてどんな種族かも全然わからないしどうやって決めればいいんだろう。
取り敢えず、聞けばいいか。
「知恵に優れた種族とか、力に秀でた種族とかあれば教えていただきたいんですけれど」
「でしたら魔王様。私がお教えいたします」
「ほんとうですか?」
「知恵と云う事でしたら、
「不老不死って事ですか?」
「そういうことです。ですがそう云った秀でた特徴の所為か、身体における制約が非常に多い種族でもあります。例えば、日光に当たると燃えて灰になるなど、食事は限られたものしか食べられないなど、生きて行く上でいろいろ大変な種族です」
「じゃあ、夜しか活動できないって事ですか?」
「そういうことです。あと、
うーん。別に問題はないかな。
だけど、じゃあどちらにすればいいか。吸血鬼はいろいろ制約があるから、私といっしょに行ける場所も限られてしまうし、だとしたら、
「直属の配下は取りあえず
「力がある者だと
「
「
凄そう!
竜ってかっこよさそうだしそれにしよ。
「じゃあ、私の直属配下はサキュバスと
キャラクターの設定の欄に、そのキャラクターの物語を綴る処があった。
いわゆる中身の設定だろう。そのキャラクターがどういった人生を歩んできたかを詳細に記すことで、ボード内で指示されること以上のものをキャラクターに付加することができるようだった。
あまりそう云った物語を綴ると云う事に関しては自信がないけれど、それなりの内容は決めておくことにしよう。
それから、私はエルロデアの説明の元、ボードを操作し設定をこまごまと決めていき、ボードの【生成】と云うものを最後にタップした。すると、ログハウスの中で太い光の柱が突如二本立った。そして天井から徐々に光の柱が消えていき中にいる存在を露わにした。
「こ、これが、
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