第5話 ダンジョン管理
コーネリアの自負は疑いようがなかったことは直ぐに理解できた。
ダンジョンの下層へ進んで行くにつれて、魔物の強さは一目瞭然だった。大きさもさることながらその動きの素早さなんかも驚異的だった。私は殆どコーネリアに守られながら先へと進むことしかできなかった。時たま不意を打たれて攻撃を受けそうになったりもしたけど、咄嗟にスキルうち倒したりもした。その度にコーネリアが賞賛の声をあげてくれる。
最終階層に到達した時、私は様々なスキルを保有していた。
どれも魔物の技で、本来は会得出来ないモノなのに次々と会得してしまう私は、魔王だからか、それともサラエラさんが云っていた私への祝福なのか。
最終階層は随分と開けた場所だった。
人工的な空間でこれまでの階層と変わらず洞窟内だと云う事を疑いたくなる場所だった。
コーネリア曰く、ダンジョンにはボスみたいな存在がいるらしいので、この階層にもいるのだろうと少しばかり身構えていたけれど、何故かこのダンジョンにはボスが存在しなかった。広間を進み、奥へと向かうも何かに襲われると云った事は一切なかった。
可笑しいと独白を漏らすコーネリアをよそに私はどんどん進んで行くと、広間の最奥に石碑が置かれていた。
これなんだろう?
見慣れない文字が石碑に刻まれており、読めないと思っていたけれど驚くことに言語理解のスキルのお陰か文字も難なく読むことができた。
――全てを手にし者へ。汝、全てを支配し永劫の時の王とならん――
文字が刻まれた下に正方形の突起物があった。式は本体とは少し材質が違うもので、黒曜石のように真っ黒で表面が艶を出していた。
私はまるで躊躇しなかった。
その艶やかな表面に指を当ててその心地を確かめた。
「魔王様!!」
後ろでコーネリアが慌てて駆け寄る。
それと同時に、触れていた突起物が光り出し、一瞬にして私の立っていた場所が変わってしまった。
先ほどの人工的な部屋から打って変わって、緑一面の草原地帯に立っていたのだ。
天をあおげば偽物じゃない、本物の空が果ての先まで広大に広がっていた。
ここって、もしかして外?
《いいえ、ここはダンジョン内です》
脳内? いや、この空間自体から聞こえてきた?
声は凛とした綺麗な女性の声だった。
《ダンジョンを攻略した者は自動で運ばれるようになっております》
運ばれる?
どうして?
《ダンジョンを譲渡するためです》
譲渡?
《はい》
私の思案に当然として応え続ける声に私は訊く。
「そもそもあなたは誰なんですか? 姿は見せてもらえないのですか?」
《そうですね。存在を視認できた方が話は早いかもしれません》
声の主がそう云うと、私の目の前に光が集まり始め、徐々に人型へと変化していく。そのシルエットが明瞭になった時、私は言葉を飲み込んだ。
その佇まいはまるで執事の用だった。
漆黒の燕尾服に身を包み、白銀の髪を肩まで伸ばし、青い宝石のような双眸と端正な鼻梁から構成される美しい容姿は同性でも恍惚としてしまうほどだった。美女サラエラとはタイプの違う華人だった。
「これで問題ないでしょうか?」
「は、はい」
「それでは、早速説明に入らせていただいても?」
私は首肯する。
「私はこのダンジョンの管理者の補佐役、エルロデアと申します」
エルロデアという女性は右手を胸に当て深々と頭を下げる。その風采は本当に執事そのものだった。
補佐役と云う事は管理者となる人の手助けをすると云う事だろうから、執事と云うのも強ち間違っていないだろうな。
「今までこのダンジョンには管理者が一人もいませんでした。その所為で、各階層を守護するものや、ダンジョンの最下層を守護する存在すらありませんでした」
やっぱり最下層にはボスのような存在がいたみたいだ。コーネリアが気にしていたことは本当だったようだ。
「そして今回ようやくダンジョンの最下層にたどり着き、管理者の契約盤に触れるものが現れました」
「それが私と云う事ですか?」
「その通りでございます。あなた様はこのダンジョンを譲渡され管理する者となったのです」
「管理って具体的には何をすればいいんですか? 私はこの世界にきてまだ日が浅いので、基本的な事やこの世界の常識も分からないんですけれど、大丈夫なんですか?」
エルロデアは屈託なく笑いかけると応える。
「問題はありません。管理するのは非常に簡単な事です。決まりはありません。これから此処に決まりを設けていくのは全て管理者であるあなた様の自由となります」
「うーん。まだよく理解できません」
「でしたら、実際に何ができるかを試していきましょう」
何もない空中に半透明なボードを出現させると、タブレットの様にボードの表面を白皙な指でスクロールしていき、目的の所で止めるような仕草をして私の方へボードを渡してきた。空中でゆっくり滑らかに動くボードは私の前で止まる。
そこには、ダンジョンの管理者名が記載されていた。
――
どうして私の名前がかかれているのだろう?
そんな疑問にエルロデアはすぐさま答える。
「これは管理ボードと云いまして、このダンジョンすべてを管理するためのツールとなります。このボードであらゆるものをこのダンジョン内に生み出したり、逆に既存のものを減らせたりすることができます。また、ダンジョン内の形すらも変えることができます。ダンジョンに関しての様々な事がこのボードによって行えるのです」
「何でもできるんですか?」
「大体なんでも可能だと思ってもらって問題はありません」
それは凄すぎる。
これ結構面白いかもしれない。
だってダンジョンの形も私の好きな形に変えれるし、何でも作り出せるなら、家とかも作れるだろうし、私の住みやすい場所にでもできるって事になる。
でも、ずっと此処にいるわけじゃないし、家を作ったところで意味はないかもしれないかな。
その時、半透明なボードの後ろでエルロデアの口元がつり上がった。
「では一先ず、画面を下へとスクロールしていただけます?」
私は云われた通りボードの画面を指でスマホの様に操作して下の方へ移動する。
すると、画面にはToDoリストの様な項目画面が広がった。
【ダンジョン管理】
□階層増設・階層撤去
□階層変更 ▼
□キャラクター
□魔物追加・魔物削除
□建造物増設・建造物撤去
□特殊設備 ▼
操作した画面を横から覗くエルロデアは説明を加える。
「こちらからダンジョンの細かい操作を行えます。それぞれの項目をタッチしていただくと、その項目の操作が開始されます。――そうですね、最初ですのでまずは落ち着ける空間を造る事に致しましょう。項目の階層増設をタッチしてください」
私は云われた項目をタッチすると、画面が変わり、第1階層から第100階層までが先ほどと同様に箇条書で羅列されていた。
「階層を増設する場合は、選択した階層の次に新たな階層が追加されます。削除する場合は選択した状態で画面右上に常時存在する[増設][撤去]の撤去の所をタッチすれば、選択した階層は文字通り削除されます」
てか、このダンジョンって100階層まであるんだ。
管理ボードの操作は本当にスマホやタブレットと同様なもので、非常に操作がしやすかった。
「新しい階層を追加するのは良いんですけど、何処へ増やせばいいですか?」
「私からは特に指定はありませんが、管理者が御する場所となりますと、100層以上だと思います」
なるほど。
私は100階層選択して増設をタッチした。
すると、100階層の下に第101階層と新しい階層が項目に追加された。
「追加できましたら、最初の画面に戻り、階層変更の項目を選択します。そしたら、さきほどと同様の画面が現れます。変更したい階層を選択して、詳細画面で階層内をどのように変更するかを決めます」
階層を選択すると、階層内の形態を選ぶところが出てきた。どうやら順序だてて変更の設定をしていくらしい。
まるでゲームクリエイターになった気分。
選択肢は多岐にわたり、洞窟、草原、森などといった項目が羅列されていた。
私は【草原】を選択した。
特に意味はないけれど、落ち着ける空間ということなので、草原かなって。
次に表示されたのは階層の広さだった。
これは何ともざっくりとしたもので、選択肢が大・中・小の三つしかないのだ。
「規模としましては最小サイズでも100階層と同等になります。【大】の場合は今現在いる空間くらいだと思ってください」
今いる空間って、限りとかあるのかな?
見渡す限り何処までも続いていそうな空間だけど。
取り敢えず草原を選択してしまったし、小さくても仕方がないので【大】を選択した。
ここまでは本当に大雑把な設定だったけれど、ここから続くのは事細かな詳細設定だった。
階層と云うものは本当になんでもありのようで、物理法則はほとんど無視できるらしい。例えば、設定の中に、天蓋の項目があったのだけれど、ここへ来る道中で見かけた青い鉱石で覆われた階層の様に、一面をそう云った鉱石で埋め尽くすのか、それとも、天蓋を無くして、空をそこに形成するのか、そう云った選択も出来たのだ。
一通りの設定が終了すると、続けてエルロデアは建造物の設定をするようにいう。
落ち着ける場所なので、草原の中にログハウスを一つ造った。
「では設定も完了したと云う事で、場所を移しましょう」
エルロデアは腰を折りながら華麗に指を鳴らした。すると、景色は一瞬で変わり、私が先ほど設定した101階層にいた。
眼前にはログハウスが構えていた。
軽やかな足取りでエルロデアはそのログハウスの扉を開けた。
「どうぞ」
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