第11話 魔王と岩窟人への派遣

 討論の最中、姿を消したシエルに疑問を持ち、私たちがいないことに気が付いた彼女らが慌てて私の居場所を探して転移してきたらしい。


「せめてどこか行く際は、ひとこと言っていだたきたく思います」


「ごめんね。これからは気を付けるよ」


 城外に配下が揃ったところで申し訳なく思いながら、再び城内へ転移することにした。城外へ出たのは【炎龍の遺骸】の確認と、素材の回収、そして、モルトレの悪魔生成の立ち合いが目的だったので、それが済んだ以上、何もない平原に滞在する意味はなくなった。


 会議室カンファレンスルームに戻ると、ひとまず先ほどの事を説明しておいた。説明する成り、口をそろえてドラゴンを見てみたいだの、戦ってみたいだのという彼女らに少しばかり辟易さを感じてしまう。

 まあ、見せるためにまた外へ出るのも億劫だったので、次の機会に見せるとだけ言って、彼女らの望みは一蹴させて、席に着いた彼女らに対して、次なる行動を話した。

 全てが明瞭に決まっているわけではないけれど、大雑把ながらめぼしはいくつかあった。


 一つは、岩窟人ドワーフへの案内人の手配。

 二つは、魔王ヒーセント・レン・パロアへの謁見。

 三つは、外界での冒険者としての登録。

 私の中では今のところこの三つが挙がっている。


 どれを優先して行うかはまだ全然決めていないから、それを配下たちに相談しよう。


「そうですね。岩窟人への手配はなるだけ優先したい件だと思います。マリ様の目的からすれば、早期に街づくりの人員補充が必要だと思われます」


「それなら、魔王ヒーセントへの謁見も同様に優先すべきものだと思うのですが?」


 ハルメナの意見にサロメリアが提言する。


「理由を聞いても?」


「魔王への助力を願えば、人員の補充が可能になるのではないでしょうか? 話を聞くに、岩窟人から頂ける人員はたったの5人だと云うではないですか。もし交渉がうまくいけば、より多くの助力をいただけるのではないでしょうか?」


 確かに。魔王の助力を願えば、岩窟人よりも多くの人員を確保できるかもしれない。けれど、果たしてどちらが早いだろうか?

 岩窟人のオーリエンス山脈への距離の方が格段に近い。

 魔王ヒーセントがいると云うギーザス寒冷地へはその倍以上は掛かると云う。早急に人員が欲しいとなると岩窟人への手配が優先されるだろう。しかし、数を欲しいとなると、魔王の方になる。だけれど、魔王の方に至っては必ずしも人員を割いてくれるとは限らない。下手をすれば相容れない関係になるかもしれない。そんな不確かなものを優先するかは熟慮する必要がある。


「ウチには難しいことはわかんないけど、全部まとめてやっちゃえば

 済むんじゃないんですか?」


「キーナの云う通り、それができればいいんだけれどね。残念ながら私たちの人員は多くはないから。まとめて行うには人手が足りない」


 とはいえ、足りないことは決してない。ただ、防衛の人出を減らすのは好ましくないのだ。【ダンジョン攻略=死】という事態は絶対に起きてはいけない。その危険性がある以上、防衛の人員を減らすのは極力避けたい。


「人員を割くのは確かに避けるべきですが、最低でも二人だけで済むのではないでしょうか?」


「岩窟人へ一人、魔王へ一人だな」


 アルトリアスが云った。


「ええ。それなら、ダンジョンの防衛にも支障はないはずです」


「魔王への交渉はそれ相応の者がいかねばいけないと思われます。交渉においてもそうですが、何かあったときに、如何にかできる者でなければいけないでしょう。故に今回は私たち階層守護者にお任せいただきたく思います。守護者も以前とは違い人数もそろい、欠けても問題ない戦力となりました。ですので、今回は私たちの中から一人選抜していただきたいと思います」


 彼女らがそう言うのなら、信じてみようかな。

 でも、彼女ら守護者には別にやってもらいたいことがあるからな……。

 現状では階層守護者は全員揃い、1人欠けたところで、防衛には大きな支障は出ないのも事実。もし出るとすれば、件の勇者が突如攻めてくるくらいだろう。または古の大龍の襲来か。

 そう考えるともしもの保険はかけておきたい。

 そうなるとやっぱり派遣は――。


「魔王ヒーセントの元へは連続になってしまうけれど、レイに任せようと思うわ。そして、岩窟人への手配はそのほかに任せるとする」


 一同が彼女の方を見る。


「うちですか?」

「ええ。貴方は隠密行動に非常に優れているうえに、幻影術も得意としている。もし何かあったときはうまく対処できるはずだし、貴女の俊敏さも今回は必要になってくる。なるだけ急いで助力を戴いてきてほしいのよ。それに、オバロンの配下の刺殺の牡牛ケンタウロスのスピードについていけるのはこの中では守護者と貴方くらい。でも今回、守護者をあまり出したくないから、貴女しかいないわけなの。レイならすでにオバロンで偵察経験もあるし、相手の様子を見ながら行動ができるはずよ。そんなあなたの力を見込んで今回も重役を頼みたいのだけれど、大丈夫?」


そこまで聞いてから、レイは目を輝かせて膝をついた。


「かしこまりました。マリ様のご期待に恥じない働きをすべく、すぐにでも出立いたします」

「助かるわ。ではお願いね。魔王ヒーセントのところまではオバロンの配下の者に道案内をしてもらわなくてはいけないから、先に彼のもとへ行ってきてくれる?」

「かしこまかしこまりました」


 そしてレイは姿を消した。


「いいなぁー。僕も役に立ちたいのに、未だに何もないんだから困っちゃうよ」


「わ、私もそろそろ活躍とかしたかったです。戦いは好きではないですが、戦闘ごと以外なら是非、私も使って欲しいです」


 モルトレの言葉に続いてオーリエも言葉を発した。彼女はとても温厚で、争いごとを嫌っている。だからこそ、こういった交渉の方が彼女にとってはありがたいだろう。けど、残念ながら、交渉には不向きな性格であるからして、彼女が今後、交渉の場面に立つことはないかもしれない。


「さて、それじゃ岩窟人への手配だけど、これはロローナにお願いしよう」


「わ、私ですが!?」


 彼女のフサフサな尻尾がピンッと立ち上がる。


「いつもレイに任せていたけど、今回はロローナに任せるわ」


「あ、ありがとうございます。私、頑張ります!」


 うーん。なんて健気で可愛いんだろう。


「これでひとまずは方針が決まったね」


「それでは早速、行動に当たらせていただきます」


「ロローナも岩窟人の場所がわからないと思うから、あとで地図を渡すわ」


「はい!」


「それじゃみんなも持ち場について。」


「「「「はっ!」」」」


 そして、会議室から守護者達が姿を消した。


「さて、アカギリとカレイド。ちょっといい?」


「「はい」」


 私の元まで来た2人に私は以前話したことを再度確認する。


「2人には外界の人がこのダンジョンに移住してもらえるよう、知名度を上げて欲しい。まだ、冒険者としての登録もできていないと思うから、今から近隣の街で冒険者登録を済ませてもらえる?」


「かしこまりました」


「登録後は独自で動いて欲しいわ。わざわざ私の支持を仰がずに行動して欲しい。何かある時だけ私に報告してくれればいいわ。取り敢えず、2人の冒険者としての知名度を上げて欲しい。大丈夫?」


「かしこまりました。迅速に名を挙げ、ダンジョンへの移住者を増やすべく尽力いたします」


「うん。お願い」


「それと、キーナ。あなたにもお願いしたいことがあるわ」


「うちにですか? 何なりと」


「キーナは確か、蛾を使役できるのよね?」


「全てではないんやけど、ある程度の蛾ならうちの眷属になります」


「その眷属にした蛾の視覚を共有できたよね?」


「はい」


「それを使って、近郊の情報を探って欲しいの。情報収集はコーネリア達に任せているけれど、あくまであれは光側の情報や、魔王の情報収集なの。キーナにやってもらいたいのは、近郊に潜む多種族の情報よ。私の手元にある地図には、どこにどんな種族が生息しているのか、細かな街までの詳細図なんかはないの。たがら、より情報量のある地図を作るために、あなたには動いてもらいたいの」


「そういうことなら、うちに是非任せてください!広範囲視覚でちょちょっと集めてきますよ。いやー腕がなるわー」


「地図を渡しておくわ。集めた情報はどんどん追記してくれればいいわ」


「ありがとうございます」


 そしてキーナは揚々とその場から消えた。


「ロローナにもこの地図を渡しておくわ。私たちのダンジョンの位置がここで、岩窟人の住むドルンド王国があるのがここ。整備された道があるかわわからないけど、大丈夫そう?」


「はい。多分問題ありません。すみません、ありがとうございます。それでは私もすぐに出立致します」


 ロローナもそうして姿を消した。

 アカギリとカレイドもダンジョンを後にした。気がつけば会議室には私とレイ、カテラ、エルロデアしかいなくなっていた。

 随分とさみしくなった。

 皆んなが其々行動している最中、私はダンジョン繁栄と防衛に何ができるだろうか。

 私にできることは数少ない。ダンジョンから出られない以上、管理ボードによってダンジョンの強化に努めるほかないのかな。


「マリ様。もしよろしければ、特殊能力の強化をなさいませんか?」


 エルロデアが唐突そう提案した。


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