第21話 報告
大分待たせてしまったようで、私たちが広間に戻ったときの男たちの、待ってましたっと言わんばかりに申し訳なさと、少しの笑みが零れてしまった。
男性陣と入れ替わりで、女性陣はそうそうに小屋へとむかっていった。
私と配下たちも城へと戻ることにし、すでに広間にあった食事類は殆どが綺麗に片付けられており、厨房へと繋いである転移門からエネマとディアータが姿を現した。
それを見かけたデモンが、小走りに彼女の元へと駆け寄った。
「どこに行かれていたのですか?」
「厨房の方にね」
「おかえりなさい。ふたりで片づけを?」
私はエネマに尋ねる。
「いえ、料理係みんなで行いました。もし小腹がお空きのようでしたら、厨房に残りのモノを保存していますので、お声かけ下されば、直ぐに運ばせていただきます」
エネマが丁寧にそういうと、隣で訊いていたディアータが籠った声だったけど、吃驚の声を漏らしたのはわかった。
「マリ様に余り物を食べさせるおつもりですか?」
「いいのよディアータ。私がエネマにそう指示したの。せっかくエネマが作ってくれた料理。捨てるなんてもったいないことはできないわ。捨ててしまうのであれば、冷蔵しておいていつでも食べたいときに食べることができるようにすれば、材料と、エネマの労力を無駄にしなくて済むじゃない? だから、こうして保存してもらうように頼んだのよ」
「なるほど。かしこまりました。出過ぎた発言でした」
「別にいいわ。それよりディアータ、この後少しいいかしら? 外界の情報のことで報告をしてもらいたのよ。大丈夫?」
「もちろんです」
外界での話をまだ詳しく聞いていなかった。
私にとっては外界の情報はもっとも重要度の高いモノ。
情報1つが私の安寧を左右するといっても過言ではないわ。
「私もそれに参加してもよろしいですか?」
デモンが腰を低くして尋ねる。
「あなたのような外界の者を会議に参加させることはできないわ」
ハルメナがそうきっぱりと言い放つ。
「確かに内情を聞かれてはマリ様の安全性が脅かされるかもしれない。安易に余所者を入れるわけにはいかない。マリ様が寛容だからといって、いつまでも゙靦然としているなよ。マリ様が赦した相手だから私たちは黙っているが、これ以上好き勝手するようなら容赦はしない」
アルトリアスの竜の尻尾が地面に叩きつけられる。たったそれだけで、地面は陥没した。
そんな彼女の威圧に、たかだか街の娼婦をしていた者が耐えられるわけもなく、デモンの足は恐怖を示していた。
そんな彼女の小さな憤りを周りの守護者たちは全く止める気配もなく、――まあ、そうなるよね。っといった風に見ているだけだった。
でも、デモンにも色々と聞きたいことはある。
彼女は外界の住人。そして私たち闇側と対立している光国の一端に長らく暮らしていた者。娼婦なんて職業をしていれば自ずと多くの情報を手に入れることは可能だろう。だとしたら、彼女の持っている情報は存外重要になるかもしれない。
だから、彼女にもこの後の会議に参加してもらいたい。
とはいえ、こうもアルトリアスが威圧した後、簡単に私が許可をだしてはアルトリアスの忠義に泥を塗ることになるだろう。
なので、間を取った提案をすることにした。
「アルトリアスの言う通り、貴方を会議に参加させるのは少し遠慮させてもらいたいけれど、貴方からも少しばかり話を聞きたいのも事実なわけで。だから、最初だけ貴方の話を聞かせてもらえるかしら? 必要なことだけ聞いたら、貴方には魔法をかけて私たちの話が聞こえないようにするわ。それでもいいなら、会議に参加することを赦すけれど、どうかしら?」
彼女が会議に参加しようとする目的はわかる。ディアータだ。
彼女とできるだけ一緒にいたい。ただそれだけだろう。
彼女自身、会議の内容を口外するとか、聞き耳を立てるといったことはしないだろう。けれど、彼女の意思にかかわらず、情報というのは拡散してしまうもの。それが他者の悪意によるものであった場合は非常に危険だ。
そうならないためにも自身の最低限守らなければいけない機密事項は漏らさないようにする必要がある。
彼女の気持ち汲み取った結果、そういう方法しかないのだ。
とはいえ、彼女自身は私の提案に満足しているようで、アルトリアスの威圧におびえながらも、首を縦に振った。
「では、そういうことで」
話は済んだ。
「エネマ。これからすることはあるかしら?」
「そうですね。片付けの方は殆ど済みましたので、明日の朝食の準備をしようかと思います。一応、新しく来た人たち用のものも用意したほうがいいでしょうか?」
彼らの荷を見るに、村から大量に食料を持ち込んできているようだし、こちらで準備する必要もなさそうだったけど、最初だけはこちらが提供しておいた方がいいかもしれないわね。
今日来たばかりの土地で、新たに生活するとなればあわただしくなるだろう。
少しでも彼らの気が休まるように、こちらが動かなければ、少しずつストレスが生まれてきてしまうに違いない。そうなってしまえば、街の定着率や雰囲気が悪化してしまう可能性がある。
そのため、早い段階から何かしらの対策を講じていく必要があると思う。
「そうね。まだ彼らも準備で忙しいと思うから、最低でも2食分は作ってあげて頂戴」
「3食ではなくてですか?」
「あくまでサポート。すべてを補ってしまえば、彼らはこの街で自立ができないと思うわ。少しずつ、この街で自分たちの暮らしを見つけてほしいのよ。だから、サポートも少しずつ減らしていくつもり」
「分かりました。 ではそのようにいたします」
腰を折る彼女に、私はそっとその小さな肩を叩く。
「明日の仕込みの前に、貴方たちもゆっくり休んでね。随分と働かせてしまっているとおもうわ」
「い、いえいえ。マリ様に気を使っていただくほどではありません! 私たちは自分たちにできる最善をしているだけです。もっとマリ様のお役に立てるよう、日々考え、働かせていただいております」
「私の為を想うのなら、その体を労わってほしいわ。大切な貴方たちにはいつも健康でいてほしいのよ」
「……はいっ! そ、それでは、私は再び厨房に戻らせていただきます。失礼します!」
エネマは再びあまたを下げて、そのまま起用に後ずさるようにして、転移門の中へと消えてしまった。
「いいなー。僕もエネマみたいにされたい!」
後方で、だったこのようにモルトレがいう。
「あなたは本当に子どもね」
「そういうハルメナも、随分と感情を揺さぶられてるみたいだけど?」
ハルメナの漆黒の羽がふぁさふぁさと揺れ動いていた。
「これはあれよ。火照りをこうして覚ましているだけよ。断じて感情によって動いてはいないわ」
「貴様はいつも見苦しいな」
「で、でも。確かに羨ましいと思いました。私もあんな風に……」
彼女たちはいつも賑やかだわ。
「さて、私たちもそろそろ行こうかしら?」
ここで長話をしていてもしょうがないわ。時間なんてあっという間に過ぎてしまうもの。
女性陣は既に小屋へといってしまったし、広間にはもはや私たちだけとなっていた。
「デモンはディアータと一緒に来てもらえばいいわ」
「どちらに行かれるのですか?」
そう傍のディアータに尋ねるデモンを視界に映しながら、私は
会議室へ着くなり、続々と守護者たちが転移してきて、席に着き始める。
そして、遅ればせながら、ディアータとデモンが転移してきて、デモンの吃驚の声が室内にこだまする。
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