第6話 魅惑のキス

 魔力消費が著しいものだった。

 守護者をすべて揃えるために一気に創造して、そして、先の闘技場にてストレス発散により私の魔力は底をつきかけていた。

 寝室に戻り、私はその消費した魔力の回復に努めることにした。


 けれど……。

 どうしてこうなったあああああ!!?


「マリ様、もう少しくっ付いてもよろしいでしょうか?」


「私も、もう少し肌を重ねたいです」


「いや、これはちょっと流石に……」


 一旦落ち着こうじゃないか私。


 冷静に今の状況を確認しよう。

 今、私はベッドで横になっている。


 うん。それは問題ない。


 そして両サイドには裸の美女が二人、私に抱き着いている。


 ここがかなり大問題だ!


 しかし、一番の問題は……。

 裸になっている私だ!


 なんで私まで裸なの!?


 そして三人の女が裸で抱き合っているこの状況が非常にヤバイ!

 私が魔力切れになりかけた時、消費した魔力を他者から与える方法があると、エルロデアが云っていて、肌を重ね合わせることで魔力の交換ができるらしい。だから配下の誰かが私に魔力を注いでくれないかと、訊く前にみんなが立候補したのだけれど、今回は頑張ってくれたレファエナとアカギリにその役目を頼んだ。

 それから三人で寝室に入って、それで……今。

 部屋に入るなり、私は二人に促されるままに着ていたドレスを脱がされ、下着姿となった状態で、代わりの何かを着ようとしたところ、二人に制されてしまい、魔力提供に布があっては邪魔と云われ私はそれを素直に納得して、少し恥ずかしいけれど、下着のまま寝台へ寝そべろうとしたけれど、羞恥の最後の砦である下着さえも剥がされてしまった。非常に恥ずかしいながらも、私は寝台へと横になった。 

 そしたら、急に二人が、何を血迷ったのかと思わず叫びたくなったのを頑張って堪え、彼女らは私の目の前で、着ていた服を自ら脱ぎ始めたのだ。彼女らの概念には存在しない下着は無論あるはずもなく、服を脱げば即裸体だと云うのに、それを躊躇わずさらけ出したではないか。


「な、なんで脱いでるの!?」


「魔力を送るには肌の接触がいいと云う事ですので、より効率よく行うために体同士を合わせれば良いのではないかと思いましてこうしているのですが……ダメ、ですか?」


 物欲しそうな表情を見せる彼女は非常に危ない。彼女のその瞳もそうだけれど、何より美しい曲線の躰と、艶めかしいほどに透き通る肌。そして、穢れなどを知らないたわわな果実の先に思わず目が吸い寄せられてしまう。


 全てにおいて美しい。

 生唾を飲まざるを得ない光景だった。


「だ、ダメじゃないよ。寧ろご馳走様」


 いやいや、私は何を言っているんだ!

 ご馳走様ってなんだ!?


 そして、そっと私の隣に体を這わせてくる2人。

 私の腕にその綺麗で柔らかい乙女の肌が触れた瞬間。私の躰に電撃が走った。

 もちろん言うまでもないけれど、それは物理的な意味じゃない。神経に干渉してくるようなそんな感覚が全身を駆け巡ったのだ。

 それに対して嫌悪感など一切感じない。感じるのはただ、恍惚とした気分だけ。暖かく癒されていくような、そんな感覚だけが私を支配していく。


「マリ様とこうして体を重ねられるなんて。こんなに嬉しいことはありません。一生分の幸せを私たちは味わっているのですね」


「どうですか、マリ様? 魔力の回復は感じますか? こんな私のような大きな体でも満足いただけますか?」


「へ? あ、うん。二人ともとても綺麗で美しいよ。魔力もどんどん溜まっていくのがわかる。本当にありがとうね。むしろこんな私なんかでごめんね。二人みたいに全然可愛くも綺麗でもなくて」


 あーあ。

 私ももっと自信のある容姿をしていればよかったのに。


「何をおっしゃいます! マリ様は美しいです! とても可憐で、私どもなんかよりよほど!」


 レファエナが急に抱き着いていた身体を離して上半身を起こすと、すごい形相で私を見つめる。


「ありがとうレファエナ」


 なんだか気を使わせてしまっているようで気が引けてしまう。


「マリ様は分かっておりません。マリ様は非常に尊いお方なのです。私たちがまるで及ばないほどに――」


 そういってレファエナは私の手をそっと持ち上げて、やさしく手の甲に柔らかい唇をつける。

 その絵は非常に美しく、騎士が王女への忠誠を誓う時の様だった。


「私はこうしてマリ様に触れられている。十分すぎるほどの幸福です。ですが、もし許されるのなら、もう少しだけ深く触れ合いたい」


 すると、彼女は手の甲の口づけからそっと唇を離すと、柔らかく湿った彼女の舌が私の肌へと触れて、甲から腕へと優しい軌道を描くように這っていく。

 まるで体が痺れたかの様に感じた。

 それは先ほどまで肌の接触で行われていた魔力供給よりも段違いに多くの魔力が流れてくる、そんな感じだった。


「相手と深く触れることで、魔力は効率よく流れていくようですね」


「そうみたい。で、でも流石にこれは少しまずい気がするんだけれど……」


 腕を伝い、肩へとレファエナの舌が這う。


「マリ様の回復が何よりも重要ですので、いかなる手段であろうとも実行するべきかと心得ております」


 じっと私を見つめる彼女は、いたって冷静で明瞭な目的をもってそこにいた。

 白皙の肌に艶美な朱色に染まる口元が優しく動く。


「だから、もしこれが許されなく、後にこの命が失われようとも、私はマリ様のご回復を最優先にさせていただきます」


 命を懸けるほどの事っていったい何をするつもりなのか。

 私は彼女が次に何をしようとしているのか全く理解できずに、美しい顔が私を見下ろすその光景をじっと待つだけだった。けれど、次の、彼女の行動に、私は二度目の人生で二回目の経験をすることになった。


「マリ様、お許しを――」


 そう口にしたレファエナの朱色の唇が私の唇へと降り、その柔らかい感触を伝えた。


 っん!! ちょ、ちょっとまって!!

 それは本当にマズイ!!


 驚きのあまり、私は彼女の躰を手で制そうとしたけど、がっちりと押さえつけられ、私は一切の身動きができなかった。

 柔らかい彼女の唇が私の唇を覆った先、滑らかに彼女は舌を入れ、私の舌を絡めとっていく。まるで逃がさないように、蛇の如く口の中で動く彼女のそれは、私の躰を毒に冒していく。抵抗力を阻害され、それをいつの間にか受け入れ、躰は一切の動きを止めた。気が付けば、私から彼女を求めるように舌を這わせている事に、吃驚すれど甘受していた。

 そして何より、彼女と舌を絡めているときが一番魔力の補填が早く感じた。

 枯渇していた魔力が物凄い速さで溜まっていくのが理解できる。

 深く触れ合う事で魔力は受け渡しできると云うのは異常なほどに理解できてしまった。

 それからどのくらいだろうか。

 私はもうほとんど覚えていない。

 気が付けばレファエナの白皙の肌がほんのり赤みをさしていた。

 甘美な感触に恍惚とした表情を浮かべたまま、彼女は私に訊く。


「どうですか? 魔力の回復は」


 どうも何も、半分以上一気に回復した。なんという事だろうか。単なるキスだけで……あれは単なるキスではないか。でも、あれだけでこんな短時間でここまで回復できるなんて、すごいとしか言えない。


「ご回復されたのでしたら、私の不敬な行為に対して、如何なる罰でもお与えください」


「罰なんて、感謝しかないわ。本当にありがとう。一寸方法は激しかったけれど……よかったわ」


 この世界に転生させられる前に、女神サラエラに同じようにキスをされた時と同じ感覚を再び味わう事になるとは、思ってもみなかった。私はどうやら新世界で新世界の扉を開けてしまったのかもしれない。

 どうしてだろう、こんなにも胸が締め付けられるなんて。まるで恋をした時のようなそんな感覚に近い物を今私は感じている。

 彼女の容姿は守護者の中でも私の欲を注込んだものとなっている。私の好みそのものがレファエナなのだ。だからこんな気持ちになっているのかもしれない。あまり、配下に優劣をつけるのはしたくないけれど、気づかぬうちにしてしまっているのだろう。


「ありがとうございます。でしたら、もし、まだ魔力が完全でないのでしたら、アカギリに続きをお願いしますか?」


 私の右腕に体をくっつけるアカギリは、私とレファエナのやり取りを見て赤面していたけれど、レファエナから提案を投げられた瞬間に、恥じらいを見せながらも嬉しそうに受け入れていた。

 それからは、彼女の提案によりその気になっていたアカギリに対して断ることもできず、私はアカギリともキスという名の魔力供給をした。 

 云うまでもない。


 ……最高だった。

 



 魔力が完全に復活して、私はドレスではなく、動きやすい薄手の服に着替えて寝室を後にした。

 私の復帰が早いことに驚く配下たちに、その理由を問いただされるのは必然だった。

 それにたいして嘘などつけない私は正直に話してしまったがために、なかなかに危機的状況に陥ってしまった。

 いわずもがな。彼女らが次の魔力供給の時は自分がすると云う話になったのだ。

 私的にはあまりああいう事はこれ以上続けたくはなかった。

 最悪の時だけ、あの方法に頼るとしても、他の自然に回復できる許容範囲内であればするつもりはない。そのことを彼女ら伝えると、一層に次の順番に対しての競争に拍車がかかった。あの行為に希少価値が付加されれば、なにがなんでも順番は早い方がいいと思ったのだろう。そのことに関して、配下たちで少しの間議論がされていた。ただ、その光景を蚊帳の外から見ていた私はあることに危惧を覚えた。


 流石に、キーナやロローナ、レイと云った明らかに未発達な少女たちに手は出せないぞ。

 色々と倫理的にアウトだ。


 だから、彼女らに順番が回ってこないように私は今後非常に注意して魔力を使っていかなければいけないと云う事だ。もう二度と魔力の枯渇という事態は招かないようにうまく調整していく必要がある。


 頑張ろう。


 そんな事を思っていると、ふとメッセージが入った。


『マリ様、ディアータです。一つご相談したいことがございます』


 それは情報収集に遣わした黒兎人コーネロのディアータ・ユゲルフォン・リーベからの連絡だった。

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