第14話 ギルドマスターとの会談
管理ボードにてダンジョンの入り口をモニターに映すと、それを見た村人たちが驚きの声をあげた。
「そ、それはいったい何ですか?」
村長のクロウェツが聞いてきた。
「これはダンジョンの管理者だけが操作できる魔法みたいなものらしいわ。私もあまり詳しくは知らないけれど、こうしてダンジョンに関することならなんでも自由自在に手を入れることができるわ。これはダンジョンの入り口の景色を投影したもの。こうして外や中の状況を把握することができるの」
私は改めてモニターに目を移すと、そこには武装した男たち、中には女性ちらほらと見える。そんな中で瀟洒な服に身を包む男が数人いた。
あれがきっとギルドマスターとやらだろう。
「どうなさいますか?」
隣でレファエナが聞いてくる。
「そうね……」
「私が迎えに行きましょうか?」
「ディアータが? 頼める?」
「勿論」
「分かったわ。じゃあ、ダンジョンの大門とここを繋げるから迎え入れてくれるかしら?」
「かしこまりました」
私は村人たちをここへ招いた時と同様に、街の入り口と、ダンジョンの入り口の大門つなげると、モニターの先で、冒険者たちが吃驚に狼狽する姿が映る。
繋がった門を抜け、ディアータはダンジョンの入り口で群がる冒険者たちの前に姿を現した。
冒険者たちは彼女の出現に一瞬で身がまえるも、瀟洒な服を着た男の一人がそれを制した。
どうやら誤解が解けたようで、ディアータの誘導の元、冒険者たちは光の大門へと入っていく。
それと同時に、私たちがいる階層に門をくぐった冒険者たちが続々と入ってきた。
私はモニターを閉じて門のところへ歩いていくと、冒険者の戦闘に立つ瀟洒な男が私に気が付き、その目を細めた。
私が近づくと、近くにいたディアータが深々と頭を下げ、私と冒険者たちとの間から身を下げた。
その様子から察したのだろう。少しばかりざわついていた冒険者たちが、一瞬でその口を閉じた。
「こんな辺境までお越しいただき、誠にありがとうございます。私はこのダンジョンを管理し、そして、八番目の魔王を任されたマリと申します。どうぞお見知りおきを
」
私が一般的な人間の女性であることに冒険者一同は誰一人として驚いてはいなかった。
「初めまして、私はウィルティナの冒険者ギルドでギルドマスターをしております、ホーキンス・レイラット・グロムウェルと申します。この度は、私のギルドに所属する冒険者の命を救っていただき、誠、感謝の念につきません。簡単ではありますが、こちらの者たちも紹介させていただきます。私の右手に居るのがギルドで受付嬢をしていますビレッジ・モルマン。反対がギルドに張り出される依頼の管理をしておりますドフト・ロレンスになります以後、お見知りおきください」
「ご丁寧にありがとうございます。それより、立ち話もなんですのであちらで話をいたしましょうか?」
私は先ほど完成した食事処の一角に彼らを案内した。
私の向かいにギルドマスターのグロムウェルさんが座り、その隣に同じく瀟洒な服に身を包むロレンスさんと、モルマンさんが座った。その後ろには冒険者たちがじっと様子を伺っている。
私の隣には誰も座ることはなく、その場にいた配下は全員私の直ぐ後ろで待機していた。
「すみません。まだここはできたばかりですので、何もおもてなしができないもので」
「いえ、お構いなく」
「それで、今回ギルドマスターでおられるグロムウェルさんがこちらに来た理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「私のことはホーキンスと呼んでくださって構いません。この度、救っていただいた冒険者から話を伺いまして、マリ様がダンジョン内に街の建設を目指しているとのことで人手を借りたいとのこと」
ホーキンスはちらりと遠くの建設途中の建物たちを見やる。
「ええ。ダンジョンに街を創るにも、なかなかどうして人手が足りなくて、大変困っていたところなんです」
「ですので、今回、私ども冒険者ギルドがお力添えできればと思いまして、こうして訪れた次第であります。ギルドに所属する者はみな家族ですので、そんな家族を救ってくださった相手に誠心誠意報いるにはどうすればよいか考えた結果、今回こうしてお力することだと思いまして、来させてもらいました」
「それは大変助かります。最近、他の魔王とも協力して、色々と手助けをしていただける話はつけれたのですが、それまでの間、岩窟人の方たちしか動けない状態でしたので、早期で手伝える方たちがいてとても助かります」
「いえ、こんなことでしかお役に立てないのが心苦しいですが、何か要望があれば是非言ってください。全力で、お応えできるよう致しますので」
「少しお聞きしても?」
「はい」
「今回、こうして多くの方が手伝いに来てくださっているようですが、彼らは皆、どのくらいの期間、手伝っていただけるのでしょうか?」
「そうですね。こちらとしてはある程度完成するまでは手伝いというのがお気持ちですが、残念ながら長期間にわたる拘束は彼らにとって死活問題になりかねます。彼らの中には家族を持つ者も少なからずおりますので、稼ぎが減ってしまうようなことは極力避けたいのです。ですので、最長でも1か月」
「1か月も!? 大丈夫なんですか? 彼らをここで1か月働かせるだけで、その一か月分の稼ぎがないに等しくなるのでは? となればそれだけでも死活問題になると思うのですが?」
ホーキンスさんは屈託なく笑みを浮かべる。
「そこは私どもギルド側がここで働く冒険者たちに報酬をお支払いいたしますので問題はありません」
「なるほど。ですが、そうなるとギルド側の負担も大きいものになるのではないのでしょうか?」
ざっと見た限りだと、今回ここに来た冒険者の数は18人ほど。
その全員の賃金を支払うとなるとかなりの金額が動くことになるだろう。そうなればいくら何でもギルドとしては大赤字になるんじゃないかな?
まあ、ギルドと言うものがそもそもどういった組織なのかわからない以上、赤字なんて概念があるのかどうか不明だけれど。それでも単純に考えて痛手なはず。
なのにどうしてそこまでギルド側が動くのだろう。
「そこまでする理由はあるのですか?」
「理由ですか……。まあ、正直に言いますと、築ける関係なら今のうちに築いておきたいというのが私としての考えです。マリ様は既に私のギルドに配下を送っているかと思います」
「アカギリとカレイドのことかしら?」
「はい。彼女らの実力を直接ではありませんが、色々とギルド内の噂を聞いて、相当の実力があることを私も理解しております。そんな方たちの主である魔王マリ様とはいい関係を築きたいと思っております」
「いい関係なら、是非私も築きたいと思っています。私も街をつくるに際して、ギルドの設立を考えているので、ギルドマスターであるホーキンスさんとは今後とも仲良くしていただければと思います」
「それは、大変ありがたいお言葉です。では今後ともよろしくお願いいたします」
「お近づきの印というわけではありませんが、私からも手伝っていただくにあたり、皆さんにお渡ししたいものがあります」
何をですか? という風な顔を見せるホーキンスさんをしり目に、私はアイテムポーチから布袋を取り出して机に置いた。
その時響いた金属の音に、ホーキンスさんは確かめるように訊く。
「もしかして、金貨ですか?」
「音で分かりましたか?」
「ギルドマスターをしていれば、多額の金銭を扱うことが多くなってきますので、自然と聞き分けれるようになりまして……」
「ここには金貨500枚が入っています」
「500!? そんなにですか!?」
「これは働いてくださる冒険者の方たちへ報酬ということで受け取っていただければと思います」
「そんなに多くは……いえ、ご厚意、ありがたく頂戴いたします」
「受け取ってもらえてうれしいわ。ところで冒険者の方たちは今後どのようにして建設に携わってくれるのでしょうか? ウィルティナの街まではここから2時間ほどだと聞いています。毎回ここへ行き来するのも大変だと思うのですが、どうでしょう? 協力する間はこの街で過ごされてはいかがですか? あまり設備が整っているとは言えませんが、不自由はさせないように配慮いたします」
ギルドマスターとしては冒険者個人のこととなるので何とも言えないのだろう。
ホーキンスさんが後方を確認すると、一人の冒険者が前に出た。
「俺は住み込みで働いても問題ありません。むしろそれくらいはさせてもらいたいです!」
この男のひと、どこかで見たことがあるような……っ!
そうだ! 以前ここに来た冒険者だ!
「あなた、ガビルといったかしら?」
「は、はい! ……どうして俺の名前を」
「今日、私の配下が貴方を助けたと思うけれど、その時に名前を聞いたのよ。それより、住み込みで働いてくれるというのは本当かしら?」
「も、もちろんです! 命を救っていただいた恩にはそれくらい当然です!」
「ありがとう。一応、ここには寝泊まりできるように一時的に小屋を建ててあるから、そこで暮らすことができるわ。食事もこちらで用意するから心配いらないわ。何か足りないものがあれば言ってもらえれば用意するから、安心して」
「助けてもらった身でそんな色々とされては……」
「気にしないで。これは私のエゴだから。もし彼と同じく、ここに滞在して手伝ってくれる人がいれば、自由にしてくれていいわ。それと、今後の生活について、道案内をしてくれた彼女からいろいろと話を聞いてちょうだい」
私はディアータの方を見て言う。
「とりあえず、時間的に結構遅い時間だと思いますので、夕食の準備を先にして、それから皆さんでご一緒に食べましょう。今日は来客が多い日ですので、親睦会も兼ねた食事会になればと思います」
「いやはや、なかなかどうして私は自分の目を疑ってしまいます」
ホーキンスさんが私を見据えて口元を緩めた。
「何がですか?」
「初めてお会いした時は、その身からあふれる魔力量に身を震わせましたが、こうして相対し話をするうちに、こういっては失礼かと思いますが、魔王らしくないなと思いました。非常に話しやすく、慈悲深い考えもまた魔王らしからぬというものでしたので、今私の前にいる方は本当に魔王なのかと疑問に思ってしまいます」
「それはよく言われています。同じ魔王同士でも、私はどうも魔王っぽくないと。まあ、私もあまり魔王の自覚はないのでそれはそれで別にいいんですけれどね」
「本当に変わったお方だ」
ホーキンスは静かに席を立つと私にそっと手を差し出した。
「今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
私はその手を握る。
そして、私は何一つ問題なく会談を終えることができた。
話が終了したのち、私は簡単に現在この街にいる者たちの説明を冒険者とギルドマスターであるホーキンスさんにした。岩窟人たちとも少しばかり話をし今後どのようにして作業していくかの大雑把な概要の説明を受けてもらった。
本格的な内容はまた後日ということで、本当に簡単なものの説明となる。
そして大まかな説明を終え、私たちは漸く夕食の支度へと事を進めることとなり、皆が支度を始めたところで、ダンジョン内の明かりが変転した。
「これはなかなか素晴らしい光景ですね」
ホーキンスさんが階層の上を見上げて零す。
「まるで夜空だ……」
「この世界の空も、こんな風に見えるんですね」
「やはり、お聞きしていた通り、マリ様はこのダンジョンから出ることができないのですね」
「ええ。残念ながら。ですのでこの世界の夜空と言う者がどういったものか、私にはわからないのですが、ホーキンスさんの言葉や、他の者たちの言葉を聞くと、このダンジョンの天蓋のような光景だということは理解できました」
それから私は少しばかりの歓談をホーキンスさんと交わしながら、エネマからの連絡を待った。
そして彼女からの連絡はすぐに届く。
『マリ様、準備が整いました』
(わかったわ。ありがとうすぐに
私は厨房ですべての準備を終えたエネマから連絡を受け、管理ボードで厨房とこの広間の食事処を繋げた。
そうして転移門から姿を現したエネマと彼女の下で働く料理人たちが食事を運んできた。
そのすべてに質問を繰り出してくるホーキンスさんに確りと私は答える。
すべての準備が整い、私は魔法で広間の中心に井桁で組まれた木材に炎を点火した。
煌々と燃えがる炎の柱が広間一帯を照らし出す。
さあ、宴を始めましょうか!
そうして皆にテーブルに着くように呼びかけようとしたとき、私の後方から様々な感情の眼差しが飛んでくるの気にが付いた。
「マリ様は、これはいったい?」
「なんだかすごく楽しそー」
「燃エる様ハ、キレイ。爆発ト似てイテ」
「わ、私も混ざりたいです」
「宴でしょうか?」
「じゅるり……。おいしそうなものばかり」
「シエル、涎が垂れているわ」
「こんなにも集まっているとは。これは今後の進展が楽しみですね」
「また弱そうな者ばかり」
視線を移すと、そこには自由を命じていた守護者たちが勢揃いしていた。
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