第11話 役割分担と新たなる配下たち

 配下の創造はやっぱり一苦労なものだった。

 食料調達に出かけた二人が戻ってきたのは2時間ほどしてからの事だ。

 その頃には配下を5人創造できた。配下の創造はやっぱり一苦労なものだった。ただ、ある程度その設定の仕方も掴み始めていたのか、一人当たりの時間がかなり減った気がする。まあ、そもそも守護者よりは情報が少ないためでもあるだろう。


 新たに創造したのは物資調達係3人と宣伝係2人。


 このダンジョン、もとい私の下で暮らすと云う事をダンジョン外の国々に宣伝するため、それ相応のものでなければいけないとエルロデアが指摘した。幾ら魔王でも、弱い魔王のもとに着くほど外の人たちも莫迦じゃないと云う事らしい。そのため、ある程度力のある魔王であることを証明するためにも、力の強い事を体現させるようなものでなければいけないと云う事なので、宣伝係二人は見た目からして強そうな鬼人オーガ牛人ヴァッカという種族で設定した。


 鬼人は、見た目は只の人だけれど、その体長は人間の1.5倍はあり、額から生える一本の角はその者の強さの象徴らしい。角が立派なほどその者が強い証となると云う。

 筋肉が引き締まった美しい体は健康的な褐色肌をしていて、紅蓮の瞳は鋭い眼光を放つ。それが私の設定した鬼人=アカギリだ。身体能力は守護者にも劣らないだろう。


 そして牛人は、こちらも見た目は人と変わらないけれど、頭から生える大きく太い双角と、人間離れした胸部の豊満さは正に牛! 身長は人と同じか、やや小さめだと云う。今回は高身長の鬼人と並んでいる所為で、非常に小さく見えてしまう。

 きめ細やかな肌に豊満な胸とむっちりとした太もも。最大限そのプロポーションを生かした服装は何とも目のやり場に困ってしまうものだけれど、何よりも彼女の頭に生える二本の大きな角が威風堂堂に存在しているため意外とそちらへ注意が逸れる。それが私の設定した牛人=カレイドだ。


 この2名が宣伝係となる。


 そして物資調達係は俊敏性を重視した設定で行った。どんな種族がそれに当て嵌まるのかはエルロデアとカテラに訊いて種族を選んだ。今の所同種は作っていない。


 ロローナ・シルファニエッタ。狼人アンスロープという種族で、人型で耳と腕、尻尾が狼のそれを宿しており、この種族は等しく肌が褐色に染まっていると云う。無論彼女もそうだ。その様相は革鎧と深紅のケモ耳頭巾を被り、腰には様々な小道具を仕舞うポーチを下げている。革製のサイハイブーツからショートパンツの合間に見える健康的な褐色肌。俊敏性を誇る種族でもある狼人はなかなかに筋肉が引き締まっている。


 次に妖鬼フェアリーオーガという変わった種族の、レイ・アモン・ロードフェル。妖鬼は鬼人と違い、その体格は非常に小さい。人の幼児と変わらないほどだ。精々、大きくても130くらいだそうだ。また鬼人との違いとして、角もその一つだ。鬼人は角を1本額に生やしているけれど、妖鬼は2本の角を生やしている。体格に比例しているのかそれは非常に細く、しかし強固で鋭利なものになっていた。

 妖鬼らが使うのは、魔法とは少し違ったもので、彼らの中では妖術と云うものを使って戦闘するらしい。妖鬼はその体格が幼いため侮られがちだけれど、その実、戦闘能力は非常に高い種族だ。小さい体のお陰か俊敏性に優れた戦闘スタイルで、命武と呼ばれる死ぬまで使い続ける唯一の武器と妖術で相手を刹那に屠るのが、彼女レイの種族だ。

 幼女で鬼と云う事で、牡丹柄の紺色の浴衣を纏わせてみた。髪は漆黒で非常に日本人のようなスタイルだ。勿論足元は上げ底の瀟洒な黒い下駄を履いている。


 そして3人目はキーナ・ベルモラ。白蛾ファーレナという稀有な種族。虫を模した人型の種族で、人間の尾てい骨辺りから大きな蛾の腹部が存在する。その存在感はかなりのもので、他にも額から生える触覚も蛾のそれだ。虫嫌いな人だったらいくら人を模していても、そのリアルな見た目からは受け入れがたい想いを抱くだろう。残念ながら、私は虫に対してそこまで忌避する事は無いし、恐怖だって感じない。育ったところが田舎だったのがきっと原因だろう。

 そんな白蛾は蛾独特の翅をもち、普段は背中に折りたたんでいるけれど、何時でも自在に出し入れできるような特注の服を身に着けている。少しばかり背中が開けた服を着ているので、後ろ姿は、リアルな翅とお尻に目を瞑れば艶めかしいかもしれない。そんな彼女の躰にはふさふさな毛が首回りと腰回りに生えており、少しばかりゴージャスさを感じさせる。

 白蛾はそんな翅を利用して素早く飛行することができる。陸上ではそれほど俊敏性は見込めないけれど、飛んでしまえばそれは逆転する。

 キーナは非常に陽気な性格で物資調達に必要な対人スキルはかなりあるだろう。

 

 これが、私が新たに創造した新しい配下たちだ。

 

【物資調達係】

 □ロローナ・シルファニエッタ(狼人アンスロープ

 □レイ・アモン・ロードフェル(妖鬼フェアリーオーガ

 □キーナ・ベルモラ(白蛾ファーレナ


【宣伝係】

 □アカギリ(鬼人オーガ

 □カレイド(牛人ヴァッカ


 これで私の配下は11人。これから徐々に増やすと云っても、私が管理するのは精々30くらいだろう。多すぎても管理しきれないし、正直しんどい……。

 階層守護者をあと7人は最低造らなければいけない。

 あとは使用人を幾人かと、料理人がいれば食生活に満足できるかもしれないので、2、3人? は造っておく。

 ダンジョン外の異世界人との交流は今の所、闇妖精ダークエルフのコーネリアだけなので、少しばかり高揚感が生まれている。確りした交流をするために、彼女らには非常に頑張ってもらいたい。他力本願だけれど仕方ない。


 会議室内で私を前に膝をつく5人を見つめて、私はその緊張した姿勢をやめる様に云う。

 一同が私の前に立つと、私は彼女らに行ってもらう仕事を指示すると何処かで練習したの? とツッコミを入れたくなるほど一糸乱れぬ一律の動に私は圧倒されてしまう。忠義をします姿勢をするだけでこれほど圧倒されてしまうのだからなかなかだ。

 彼女らには今までの配下同様に【転移の指輪】を装備させ、この後々大きな街になるだろう階層に自由に行き来できるようにした。

 諸々の説明が済むと、彼女らは私に規律正しい挨拶をすると、早速会議室からその姿を消した。

 創造して真っ先に仕事に取り掛かるなんて、OL時代の私には考えられないだろう。自分の意志に関わらず強制的に連れてこられたところで率先して献身的姿勢など欠片も出来はしない。それは断言できる。断言できてしまうあたりが酷く情けないけれど……。

 

 これで物資の調達と、このダンジョンの宣伝が同時で行われる。ここに暮らしてくれる仲間が来てくれれば最高だけれど、現実はきっと厳しいんだろうな。


 あとは――。


 ふと私は椅子に座るコーネリアに視線を向ける。

 彼女と同伴して世界の情報収集にあたる者を造らなければいけないのだ。

 もうキャラメイクにも十二分に慣れ始めたからか、同行者の設定は直ぐに終わった。

 全身を黒曜色の完全武装フルプレートに身を包んでいる如何にも暗黒騎士の様相で彼女は私の前に立っていた。仰々しい重装甲な鎧ではなく、女性的特徴になぞらえて造られた軽装甲なものではあるものの、その身を包む金属の塊たちは大抵の攻撃では傷などつかないほどに高硬度のものだ。胸周りや腰回りは柔らかそうに見えてしまう羽のようなデザインだけれど、云うまでもなく硬度は変わらない。黒曜色にフォールズの下にアクセントを加える深紅のドレープスカート。そして角の生えたバイザーからは漆黒の中に紅く光る眼が2つ覗く。

 ディアータ・ユゲルフォン・リーベラ。黒兎人コーネロという種族で、全身を黒い毛で覆われ、人型ではあるけれど、獣の特性がかなり強い種族だ。だからと云って完全に獣寄りと言う訳ではない。躰の一部は確りと人の様に美しい肌が垣間見える。腿や胸、肩回り、顔といった処には獣のような毛は生えてはいない。

 私の設定上、彼女はあまり人前で自身の姿を見せない。その威圧的な様相と同様に非常に規律正しい性格をしている。設定では騎士としての役目を担わせている。その所為で、悪事は決して許さない精神を宿している。

 私を前にした彼女は腰に下げている白銀の剣を抜きバイザーの前に構え敬意の姿勢を見せる。その天井をさす切っ先が1ミリもブレることなく掲げられると、バイザーの中から少しばかり籠った声が聴こえた。


「私は王の騎士、絶対の忠誠を誓います。吾身、御心のままにお使いいただければこの上ない悦びでございます! 魔王様! 何なりと!」


 騎士という設定なだけにその1つ1つの行動が非常に仰々しい。これまでの配下より突出して規律正しいものを生んでしまった気がする。けれど、そう云った人物の方が世界を廻る者として最も適任なのかもしれない。彼女は正義に対して厳格で悪事と云う事に関して見過ごせない質である。そのため、世界を廻るついでに困っている人も助けて、そこそこ好印象を与えられるようにしておきたい。

 私は魔王だけれど、別になりたくてなっているわけじゃない。強制的にそうなってしまったのだ。だから、別にこの世界を蹂躙したいだの、征服したいなど、人間どもを皆殺しなんてことも一切考えていないのだ。だから、せめて魔王でもまともな者がいるんだと云う印象を少しずつ与えていきたい。そうすれば、無害な魔王を態々勇者だって殺しになんて来ないだろう。

 そうした徹底の保身はコツコツと行っていくつもりだ。


「それじゃあディアータ。貴方には彼女、コーネリアとダンジョン外の国々を廻って多くの情報を集めてほしい。些細な事でも構わないけれど、一番は国々の情報と情勢が知りたいから、優先して収集してきてくれる?」


「はっ! 御心のままに!」


 彼女に装備させた例の指輪の事と、コーネリアの事も少しばかり説明しておいた。


 そして――


「では魔王様。これから君命に従い出立致したいと思います! 魔王様に有益な情報を齎せられるよう尽力いたします!」


 そうして、私の前から情報収集役の2人が姿を消した。


 一気に蕭索な空間と化した会議室。


 さて、私にできることはひとまずこれくらいだろうか? 

 あと私にできるのは、配下の吉報を願うことくらいだ。

 私はこのダンジョンから出られない身のため、他にできることはダンジョン内の細かな設定だけになる。それもまあ、立派な仕事だと思うけれど、如何にも引きこもりみたいで少しばかり退屈してしまうだろう。

 ただ、唯一退屈しのぎになるのはこの城内の探索だろう。私はこの城を造った張本人だけれど、その全容を把握しているわけではないのだ。そのため、何処に何があるのかなんてさっぱりわからない。だから、まずはこの城内の探索とダンジョン内の細かな設定を行う事になるけれど、優先順位としては後者だ。探索は仕事の後のお楽しみと云う事で。


 さあ! 今からまた机仕事デスクワークだ! 頑張れ私!


 私の両隣で小さな応援が聴こえた。

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