第10話 今後の方針
城の
私の後ろにメイド長であるカテラが姿勢よくたっている。
「ダンジョンに必要な人員はまだ不十分ではありますが、次に進めるとしましょう」
そう切り出したのは補佐役エルロデアだった。
「防衛基盤は階層守護者を置くことで取り敢えずは問題ないと思います。しかし、ここで改めて確認しておくとしますが、貴方様はこのダンジョンからの出入りは出来ますがそれは一切できないと思ってください」
まあそうだよね。
100階層にある契約盤を侵入者に触れられれば、その時点で配下諸共、私も死んでしまう。そんな危険が隣り合わせの管理者が、悠々自適に郊外へ出る事なんてできるはずもない。てかしたくない。
ダンジョンの外に出たい気持ちは非常にあるけれど、命がかかっているなら仕方がない。ただ、そうなると、私は世間の情勢を一切把握できない。
「分かりました。でも、そうなると私の代わりにダンジョンの外へ情報を集めに回ってもらうものが必要ですね」
「情報は命ですからね。それはごもっともな提案です」
「それでしたら魔王様。その役目、私が受けさせていただいてもよろしいでしょうか?」
そう名乗りを上げたのはコーネリアだった。
彼女には少しばかり、引っかかる件はあるものの、柔軟に動けるものは今の所彼女しかいないし考えるまでもないか。
「わかった。じゃあ、情報集めはコーネリアに任せることにします。ただ、もう一人一緒に回ってもらいたいかな。流石に一人だと危険だし、情報集めも苦労するだろうから……とは言っても、守護者を外に出すわけにもいかないから、同行人は改めて作ります」
「かしこまりました」
「レファエナ」
「はい! 主様」
「えっと、これは皆にも言える事だけれど、少し呼び方を変えてもらって良いかな。ずっと主様って云うのはなんていうか掻痒感があるから、私の事はマリって呼んでほしいな」
一同が示し合わせたかのように椅子から立ち上がると敬服の姿勢を取り始めた。
「「「かしこまりました! 以後マリ様とお呼びさせていただきます!」」」
様も出来ればつけてほしくはないんだけれど。しかしそれは無理なんだろうな。
「レファエナは早速12階層に行ってもらってもいい?」
「かしこまりました。ではマリ様に恥じない働きをするべく、失礼いたします」
そう云うと、レファエナはその姿を一瞬にして消した。
私が装備させた【転移の指輪】によって自由に階層を行き来することができる。そのため彼女も瞬時に自分の持ち場である12階層に飛んだのだろう。
「マリ様。私たちも自身の持ち場に行かれた方がよろしいですか?」
「いや、流石に深層まで来ている人はまだいないだろうし、行かなくていいよ」
「かしこまりました」
さて、それより……。
次に私は何をすればいいのだろうか。
取り敢えず防衛は配下に任せるとして、生活基盤だけれど。このダンジョンには住居はいくらでも建設可能だけれど、衣服や食事に関しては入手する術がない。
ダンジョンの管理者でも、そう云った者の創造は出来ないみたいだ。だから、今一番の問題は食事と切るものだ。私においては生前着ていた日本ファッションであるから、明らかにこの世界では浮いてしまっている。今でさえ、数少ない配下しかいないのに、既に服装はアウェイと化している。私もこちらの服装に着替えたいし、早急になんとかしなければいけない。
「このダンジョンでは何をしてもいいんですよね?」
確認のためにエルロデアに訊く。
「無論です。すべては貴方様の成すがままにしてもらって構いません」
「だったら、このダンジョン内に街を造ってはどうでしょう?」
そんな私の考えに、一同が疑問符を頭上に浮かべてこちらを見つめる。
「街ですか……? なかなか突飛な提案ですね。過去に例を見ない考えではないでしょうか。ダンジョン内に街を造るなんて普通は考えない事だと思いますよ」
「でも、このダンジョンでずっと過ごすなら衣食住をしっかり満たしていないと大変だと思うし、生活するうえで、様々な物資を手に入れるのに毎回誰かがダンジョン外に出て取ってくるのは大変だと思いますし、ダンジョン内に街を造ればそう云った苦労も緩和できるんじゃないですか?」
「確かに、貴方様のおっしゃる通り、物資の仕入れはダンジョン外でしかできませんので、それ相応の苦労はあるかと思います。管理者でも生み出せるものには限界がありますので、不足を補うにはやはりそう云った風にしていかなければいけませんね」
「街を造ると云っても、時間はかかると思いますから、当面は誰かに物資調達をしてもらう事になりますが、ゆくゆくは大きな街を形成して、ダンジョン内での暮らしにも裕福さをもたらせればいいと思います」
「では、街は新たな階層に造ると云う事ですか?」
「いえ、この階層に造ろうと思います。城もありますし、城下町のような、そんな風な街を造れればと思います」
エルロデアが感慨深く頷く。
「なるほど。でしたら、人員が非常に少ないですね。まだこのダンジョンには私共しかいませんので、増やす必要があります」
増やすと云っても、管理者として新たに配下を増やすにもかなり時間がかかるし、いったいあとどれだけ私は配下の設定をしなければいけないのだろう。まだ守護者も全然作れていないし、防衛基盤もまだまだ甘すぎるからそれらの詳細な設定も行わなければいけないだろうし、当面は非常に忙しくなりそう。
「ダンジョン内に街を造る事は非常に賛成できることだと思います。ただ、そこに住まう者たちを全て貴方様が創造するのは大変だと思いますので、外からこのダンジョンに招くと云うのはどうでしょう? 貴方様は魔王ですので、同じ闇側のものであれば忠誠を誓うはずでしょうし、快く来ていただけるのではないのでしょうか?」
だとしたら私の労力もかなり減るんじゃないかな。
でもこのダンジョンに住んでもらうためには、周りの国々にこのダンジョンと私の存在を宣伝してもらわなければいけない。それにも人員が必要になる。だから、結局のところ、ひと先ずは最低限の配下を造らなければいけないと云う事か。
たぶん、二日はかかるだろうな。
独りの設定を考えるのに1時間くらいかかったし、残りの守護者と城内の使用人や、宣伝や物資調達などの雑務をしてくれるものを造るとなると、ざっと20人くらいは必要になる。単純に考えれば20時間だろうけれど、そんな続けて設定などできない。流石に私の集中力は続かないだろう。
となると、優先度を決めて想像した方がいい。
守護者は今の所3人いれば問題なさそうだし、残りを設定するのはあとでいいだろう。
だとすると、今一番欲しい人材は物資調達係、宣伝係だね。これを数名創造してから、先に外へ行ってもらってから、使用人や守護者を造る方がいいだろう。
それぞれ役割に適したものを創造しなければいけない。例えば物資調達係なら、持久力と俊敏性の優れたもの。ダンジョン内での移動は【転移の指輪】で何処へでも行くことは可能だから問題はないけれど、ダンジョン外では指輪は効果を持たないため、移動に優れたものが必要になる。
そう云った事を考慮して、私は人員の補填に勤しむことにする。
「そう云えば、この城には何か食べるものとかってあるんですか? 私、まだこの世界に来て何も食べていなくて、少しお腹が空いてしまったんですけれど」
「残念ですが、創造できるのは建物だけですので何もありません」
「だったら、このダンジョンで食べられるものを採ってくるしかないって事ですか?」
「そうなります。幸い、このダンジョンに棲息している者は殆どが食べられるものですので、最低限の食事には困る事は無いでしょう。貴方様が創造した魔物以外は倒しても黒煙となることが無いので大丈夫です」
確かに……。
ダンジョン攻略をしていた時、倒した魔物はそのままだった。
「でしたらマリ様! 吾らが食料調達に行ってまいります!」
アルトリアスが席を立ち具申した。
「私も行かせていただきます!」
ハルメナも立ち上がった。
「わかった。じゃあ。食料調達は二人に任せるよ。なら、何か入れ物が必要だよね?」
「その必要はありません」
そう云ったのはエルロデアだった。
「どうしてですか?」
「ダンジョンの管理者によって創造された配下は皆等しく異空間魔法を使用できます」
「異空間魔法?」
「ものを自由自在に出し入れできる便利な収納場所と思ってください。その収納量は無限。只管入れることができます。ですので、採取したものはその異空間魔法でストックが可能なので、新たな入れ物など不要なのです」
なにそれめっちゃ便利じゃん!
私も使えるのかな?
後で試してみよう。
「そうなんだ。なら大丈夫だね」
席を立つ二人は少し離れて二人で話し始めた。
「では狩場を決めておこう」
アルトリアスがハルメナにそう提案する。
「私は50階層辺りにするわ。貴方は何処にするの?」
「なら吾は70階層近辺をあたろう」
「分かったわ。なら勝負しましょう?」
「勝負?」
「どちらが多くマリ様に食料を献上できるかの勝負よ」
「いいだろう。その勝負受けて立つ」
話が終わったのか、二人は私の方に向き直ると、挨拶をして転移の指輪で姿を消してしまった。
私に対してもあれくらい砕けた話し方をしてくれればいいのにな。
「よし! 二人が食料調達に行っているうちに私は配下を増やしておくとしよう!」
「それでは、私もそれに助力いたします」
「私も、マリ様のお役に立ちます!」
エルロデアとカテラの力添えの元、私は新たな配下を創造していった。
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